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2009年12月23日 (水)

広がる世界 ──ちょっと加えたいこと その2

51xef2azmzl_sl500_aa240__2  2007年12月20日 にご紹介した『しんせつなともだち』の類似本が『ゆきのひのおくりもの (パロル舎選「ペール・カストール」シリーズ) 』。
 『しんせつなともだち』は『くりすますのおくりもの』とお話の類似点が多かったが、絵はまるで違うものだった。
 ところが、『ゆきのひのおくりもの』は『しんせつなともだち』と絵までそっくりなのである。主人公のウサギの姿形はもちろん、着ているフードがついた緑のコートや、いろいろな動物の家の様子など、かなり似ている。しかも、絵は『しんせつなともだち』が村山知義、『ゆきのひのおくりもの』がゲルダ・ミューラーと、両者とも高名な絵本作家であり、いったいどうしてこうなってしまったのか、不思議だ。

 「ぐるぐるばなし」の展開は、『しんせつなともだち』と『ゆきのひのおくりもの』を比較すると、次のような違いがある。
  うさぎ(かぶ)→ろば→こやぎ→こじか→寝ているうさぎをそのままにして帰る
  うさぎ(にんじん)→こうま→ひつじ→こじか→うさぎが起きるのを待つ

 奥付を見ると、制作スタッフは次のようになっている(『しんせつなともだち』/『ゆきのひのおくりもの』、( )内は生年と出身国)。
  著者:方 軼羣 (1914年、中国)/ポール・フランソワ(1898年、フランス)
  絵 :村山 知義(1901年、日本)/ゲルダ・ミューラー (1926年、オランダ)
  翻訳:君島 久子(1925年?)/ふしみ みさを(1970年)
  初出:"A RETURND TURNIP"が1965年に日本語で出版されている。
     福音館書店こどものとも普及版は1974年2月号として出版
     (傑作集1987年1月、こどものとも絵本2007年9月に出版)/
     『Les bons amis(良い友達)』 は1959年に 「ペール・カストール」シリーズ
     としてフランスで出版され、邦訳はパロル舎から2003年11月に出版。

 ポール・フランソワのプロフィールに「本書は中国民話の再話」とあるので、お話のほうは、両方ともルーツは同じなのだろう。問題は絵で、出版年から考えると、どうしてもミューラーの絵を村山が真似たことになる。村山知義ともあろう人が、なぜ、ゲルダ・ミューラーの絵としなかったのか、腑に落ちないのだが……。

 追記 2010.2.2
  さいたま市図書館のサイトで興味深い記述を見つけた。「図書館員がよむ美術家の絵本ブックガイド」というコーナーで『しんせつなともだち』が取り上げられており、そこで村山知義とゲルダ・ミューラーの挿画の類似点について触れている。
  それによると、福音館書店の編集者である松居直が原作となった方軼羣の中国版絵本『夢ト回来了』を見て、日本版絵本の挿絵を村山に依頼した経緯が書かれており、

『しんせつなともだち』が『ゆきのひのおくりもの』の原典を模倣したのではなく、おそらく、それぞれの画家が画を描く際に参考にした原典(『夢ト回来了』)の絵を忠実に再現してしまった結果なのだということが予想できる。
と述べている。詳しくはこちらで。

 方軼羣が『夢ト回来了』の絵と文の両方とも描いたのか、それとも他に絵の作者がいたのかどうかははっきりしないのだが、これでなんとなく“謎”はとけたような気がする。それだけ『夢ト回来了』の絵が二人の画家に与えたインパクトが強かったのだと思うが、できることなら、村山知義とゲルダ・ミューラー、二人のオリジナルの絵を見たかったものである。


 「ペール・カストール(Pere Castor、ビーバーおじさんの意)」シリーズは、ロシアの絵本運動に影響を受けたフランソワが創刊したもので、単なる知識本ではない、文化的芸術的教育を目指して作られた絵本。ホッチキス止めの簡素な装幀だが、ここから数々の傑作が生まれている。
 「ペール・カストール」を代表する作家の、クリスマスをテーマにした本を2冊ご紹介しよう。

Kobitonomura 『ゆきのひのおくりもの』を描いたゲルダ・ミューラーの絵に、A.シャプートンの文による『こびとの村のクリスマス』は 1983年にフランスで出版され、日本では1984年に女優の岸田今日子の訳で出版されている。

  クリスマスの前の日っていうと
  チュルタンたちの村には
  あまーいにおいが ながれるんだ」

 で始まる、こびとの村のクリスマス・イブは、みんなで手作りのランプを作り、夜になると森のもみの木に吊して、焚き火を焚いて楽しく歌う。きこりのバボットとか、魔術師チビムーロンとか、こどもから大人まで、たくさんの村人はひとり一人名前や職業がついていて、服装も可愛くておしゃれ。ほしブドウ入りのパン、クマツヅラのリキュール、お日さまワインと、食べ物はどれも美味しそう。地名もゴチャゴチャ森やペチャクチャ谷、シオカラ通りシオカラ山と、とにかく愉快で楽しい。
 「またやってくる 春ばんざーい!」で終わるところなど、キリスト教的というより、ヨーロッパの原始宗教的な「冬至のお祭り」のような雰囲気だ。

51vqj9y9f5l_sl500_aa240_ もう1冊のクリスマス本は、「ペール・カストール」を代表する画家、ロジャンコフスキーの『MICHKA』。
 ALBUMS DU PERE CASTOR  CONTE DE MARIE COLMONT IMAGES DE F.ROJANKOVSKYFLAMMARION
 フランスでは戦前の1941年に出版されている、ロングセラー。Amazonで現在も入手可能。円高だし、洋書は今がお買い得。ちょっと前まではフランス語の絵本なんてなかなか買えなかったけど、家にいながらにしてあっという間に海を越えてやってくる。おまけに円高。洋書購入に関しては、良い時代になったものです。
 ミシュカはクマのぬいぐるみ。持ち主のわがままな女の子にがまんができなくなり、家出したミシュカは、森で本物のクマになろうとするが……という、ストーリーも、フランス語では何がかいてあるのかさっぱりわからない。邦訳を読もうと探してみて、あら、まざ、びっくり!

00970311 『ミシュカ』という絵物語はあったのだけど、文はマリイ・コルモンで翻訳は末松 氷海子、でも絵はジェラール・フランカンで、ロジャンコフスキーのミシュカではないのだ……!
 いったいこれはどういうことだと思っていたら、訳者もあとがきでこのことについてふれていた。が、訳者でさえ、“なぜ昔どおりにロジャンの絵を使わず、「ロジャンの絵をもとに」したいわば模写のような形にしかならなかったのか、理由はわからない"と書いている。Amazonの洋書版(1999年にDistribooks Incから出版されたフランス語のペーパーバック)も、著者の名はMarie Colmontのみで、Rojankovskyの名前はない。

 とにかく、邦訳をもとにフランス語版を見ていったのだが、わかったのは、ミソサザイの鳴き声「ピイ! ピイ!」がフランス語では《Piou... Piou!...》で、「こらあ!」が《Brrr!》ということくらい。ちょっと情けない。
 でも、2羽のガンの会話は、なんとか理解(って、当たり前です。簡単すぎ!)。

  「クワッ、クワッ! 今夜h クリスマスだね!」
   can, can! C'est le soir de Noël!

  「クワッ、クワッ! そうね。今夜は みんななにかひとつ
   いいことをしなくちゃ いけないのよね。」

 ミシュカも何か良いことをしようと思い立ち森を歩いていると、橇を引くトナカイに出会い、クリスマスプレゼントを配る手伝いをすることになる。でも、(なんか いいことをするって、これだけでいいのかな?)と考えるミシュカは、とうとう いちばんおしまいの家に来て……。

  でも、 いま、ミシュカは けっしいんしたのです。クリスマスに、
  じぶんのできる、いちばんいいことをしようと……

 ロジャンコフスキーのミシュカは、大人っぽいのに可愛いミシュカ。彩色も全体に濃く、くっきりと描かれている。フランカンのミシュカは鉛筆のデッサンに水彩で彩色されていて、全体に淡いイメージ。どちらの絵も好きずきがあると思うが、やはり大人の作品と子どもの作品くらいの違いがある。
 翻訳者にもわからない、「大人の事情」があるのだろうが、日本語版でもロジャンコフスキーのミシュカが読めるようになってほしい。

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コメント

『しんせつなともだち』と『ゆきのひのおくりもの』に共通の絵本となる中国語の絵本については、『武蔵野美術大学研究紀要』No.47(2017年3月刊)に掲載の論文に、詳しい紹介があります。大学か大学図書館に連絡すると見せてもらえると思います。

投稿: しんせつなおくりもの | 2018年5月 6日 (日) 午後 05時15分

しんせつなおくりもの様
古い記事ですが、コメントをお寄せくださり、ありがとうございました。論文を読んでみたいと思います。

投稿: Candana | 2018年5月 6日 (日) 午後 10時33分

この記事へのコメントは終了しました。

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