ねずみが出てくる昔話といえば、「おむすびころりん」は外せない。実は私が子どもの頃、一番好きな絵本も「おむすびころりん」だった。
今はその絵本も手元にはないので、作者が誰だったかわからないのだけど、穴の中でねずみたちが賑やかに宴会の支度をしている絵が大好きだったのだ。それにタイトルの「おむすびころりん」や文中にでてくるねずみたちの歌が、なんともユーモラスで語呂がいいのも、好きになった理由の一つだろう。
「おむすびころりん」は「ねずみの嫁入り」同様に、日本全国で伝承されてきた昔話で、そのタイトルもお話の内容も様々なパターンがある。ここでは、その代表的なものを紹介していこう。
まずは正統派(?)タイトルの『おむすびころりん―日本むかし話 』よだ じゅんいち(與田凖一)の文、わたなべ さぶろうの絵で、1967年、偕成社より刊行、1,050円(税込)。
絵本の最後にある與田準一(氏名の表記は1982年24刷に従ったが、与田と表記することが多いようだ)の解説によると、「おむすびころりん」は「はなさかじじい」や「こぶとりじじい」などと同じで、二組の老夫婦が隣同士で暮らしていて、善良無欲な夫婦は幸せになり、強欲無慈悲な方は失敗するという、“となりのじじい”型に分類されるそうだ。
お話の方は、おじいさんが山でおむすびを食べようとしたら、ころころところがって穴の中に落ちてしまう。穴からは「おむすび ころりん すっとんとん」というねずみの歌声が聞こえる。おじいさんが穴の中に入ってみると、おむすびをもらったお礼にと、ねずみたちに歓待される。それを知ったとなりのおじいさんも、おむすびをころがして穴に入るが、ねずみの嫌う猫の鳴き声をあげたため、穴の中は真っ暗闇になる。暗い穴の中で土を掘りながら家に帰ると、おじいさんをもぐらと間違えた隣のおばあさんは、棒で叩いてしまう。
「おむすび ころりん すっとんとん」というリズム感のある言葉遊び(実は呪いらしい)や、勧善懲悪のはっきりしたストーリー展開など、昔話の面白さが満載された、典型的な「おむすびころりん」だ。渡部三郎の絵も、太くてはっきりした線で、善者、悪者のかき分けも明快。人間の二面性をよく捕らえながらも、どことなくユーモラスな雰囲気をたたえた絵だ。
同じタイトルでも、筒井敬介の文、菊池貞雄の絵による『おむすびころりん―日本むかし話』は、特異な展開となっている。1979年に刊行され、2000年に講談社創業70周年記念出版として刊行。このじさまとばさまには子どもがいない。ねずみにもらった打ち出の小槌によって、ふたりは若返り、男の子が生まれている。
松谷 みよ子の文、長野ヒデ子の絵による『おむすびころりん (松谷みよ子むかしむかし) 』は、女性コンビらしく、主人公もじいさまからばあさまに代わっている。2006年、童心社から刊行、1,155円(税込)。
山仕事をしているじいさまのところに、ばあさまがおにぎりを届けに行くが、山道を登っている途中でころんでしい、「おむすび ころりん すっとんとん」といつものごとく(?)ねずみの穴に落ちてしまう。以下の展開は男女が入れ替わっただけで同じなのだが、隣のばあさまは、真っ暗になったねずみの穴で小判をさがしていうるちに、モグラになってしまう。「これでおしまい しゃん しゃん」。色鉛筆で描かれたマンガチックな絵が楽しい。
『てんぱたんてんぱたん ねずみのもちつき』の「てんぱたん」は、ねずみが唄う餅つき歌。梶山俊夫の再話と絵によるこの絵本は、語りが面白く、「ねずみが ちょろりとあなから かおだした」「いとしべな こだ ねぇか」「ぜんこ まで どっさり もたせたと」など、東北地方の方言をうまく取り入れた独特のリズムがあり、なんともほほえましく、懐かしい感じがする。1995年、福音館書店より刊行、1,155円(税込)。
このお話では、むすびが転がって穴の中に落ちるのではなく、お爺さんが食べようとしていると、穴からねずみが顔を出したので、「な(おまえ)も くうか」と言って、むすびをねずみの穴に落としてあげたことから、ねずみの恩返しが始まる。以下は他の昔話と同じ展開。
かなり男っぽいタイトルの『にぎりめしごろごろ (こどものとも傑作集)』は、 小林 輝子が再話、赤羽末吉の絵で、「こどものとも」1984年1月号に掲載され、単行本は1994年、福音館書店より刊行、 840円(税込)。
じいさまのおむすびは、ねずみの穴に落ちるのではなく、お堂のお地蔵さまのところにころがって、供えられていた。お地蔵様はじいさまに、お堂の天井に隠れろと告げる。やがて夜中に大勢の鬼が集まって酒盛りを始めた。じいさまが「コケコッコー」と一番鶏の鳴き真似をすると、鬼はあわてて逃げてしまい、じいさまは鬼の宝物を手に入れる。これを知った隣のじいさまとばあさまは、自分たちも宝物を手に入れようと真似をするのだが……。
お話の展開は「おむすびころりん」とほぼ同じだが、横長の判型を活かした、無駄のないダイナミックなレイアウト、絵の持つ力強さなど、やはり赤羽末吉の絵のインパクトが大きい。とくにびっくりするのは、物語のお終いで、隣のじいさまの帰りをまっていた強欲なばあさまは、じいさまが鬼から豪華な着物を奪ってくるだろうと、それまで着ていた着物を脱いで、腰巻き1枚になって、今か今かと待っているのだ。う〜ん。ばあさまの腰巻き1枚の
絵、もう、大爆笑です! その姿形もさることながら、裸になって待っている、その女心(泣)。昔も今も、女の着る物への執念はおんなじなんだなぁ……。
さて、お題のねずみに戻ると、タイトルはずばり『ねずみじょうど』、1988年、河出書房新社より刊行、1,631円(税込)。
なんと、この絵本の著者は、手塚治虫! 「手塚治虫のえほん館」として、4冊刊行されているうちの1冊で、ほかに「かたはぐるまのはなし」「えきほすのはなし」「いばら姫(グリム童話より)」の4話が収められている。私は手塚治虫が自分のマンガを絵本にしたもの以外に絵本を創っていたとは知らなかったので、これは入手しなければと思ったのだが、残念ながら絶版。ネット古書店で購入した。500円(税込)+送料。
仕様はA4横長サイズのハードカバーで全32ページ。右開き。文字は縦組み。見開きの左ページに文、右ページに絵で、計10ページにまとめられている。装幀は吉池遊・田澤司。表紙カバーも見返しもピンクの、ソフトなイメージの絵本だ。
お話は「おむすび」も「ころりん」もなく、「よいおじいは、毎日、へっついのよこのねずみのあなへ、米つぶを入れてやっとった。」するとその穴からねずみが出てきて、蛇がねずみを食べるので退治してほしいと頼まれる。よいおじいは、馬に乗って蛇を退治し、ねずみから宝物をもらう。それを聞いた隣のわるいおじいも、まねをして蛇退治に出かけるが、蛇に馬ごと飲み込まれてしまう。「すっかりおしまい、どっとはらい。」で物語は終わる。
短いお話な上、絵も、ちょっと物足りない……。ねずみや馬や蛇などは、さすがに手塚マンガで見慣れた華麗なタッチだが、けれど、“作者が手塚治虫でなくてはならない”という物を、この絵本から見つけることが、私にはできなかった。やっぱり手塚治虫はマンガの人なのだと思い、なぜわざわざ絵本を創ったのだろうと考えていたら、本扉の裏に、短い英文が書かれていた。
それによると、これらのお話は、祖母から母へ、母から幼い自分へと語り継がれた、日本と西洋の動物に関する民話を思い出しながら、それを絵本にしたものらしい。そして、いつの日か、このお話を自分の孫に語ってあげたかったと書いている。英文の最後には、「この絵本を、自分に空想力とストーリーテラーとしての力を与えてくれた、亡き母に捧げる」とある。
もう1冊の『ねずみじょうど (こどものともだ )』は、瀬田貞二の再話、丸木位里の絵で、1967年の「こどものとも」に掲載され、1971年に福音館書店から28ページのハードカバーで刊行、840円(税込)。
丸木位里は「原爆の図」で知られる日本画家だが、絵本も何冊か描いており、『ねずみじょうど』はその代表作といってもよいだろう。
じいさんは、ここでは蕎麦粉をこねた蕎麦餅をねずみの穴に落としてしまう。あとはいつもの展開。じいさんがねずみのくれた餅と黄金をどっさり入れた袋を持ち帰ったのを知った、隣のめくされじいさんが真似をするが、猫の鳴き声で暗闇となった穴の中で黄金をさがして土を掘り進んでいるうちに、モグラになってしまう。それで、モグラはいつまでも、土の中で出口をさがしている。「これで、とっぴん はらいの ぴい」。
とにかく、丸木位里の絵が素晴らしい。彼でなければ描けない絵本であり、一目で彼の絵とわかる、個性が生かされた本だ。墨絵を使っているのだが、墨の色が土の中の暗闇を強調し、人やねずみが素朴に描かれ、民話らしい人のぬくもりが伝わってくる。ただ、墨の醸し出す雰囲気は、子どもには少し、親しみがもてないかもしれない。
最後の1冊は、丸木位里の妻、丸木俊の絵、松谷みよ子の文による『ねずみのくれたふくべっこ 』。この本は1980年に第一法規出版から刊行された「日本の民話絵本」シリーズの秋田県篇を改訂し、2000年に童心社より刊行、 1,470円(税込)。
「むかし、じさとばさがいて、まいあさごせんぞさまにお水をあげておった。」で始まるお話は、おむすびではなく水であることがキーポイント。この水をねずみが飲むので、ばさはねずみが飲めないように、水を熱いお湯にかえた。すると年寄りの“よぼよぼねずみ”がやってきて、お碗の中のお湯を温泉代わりにつかってしまう。じさはねずみからお礼にと「ふくべっこ(ひょうたん)」を貰う。じさがふくべっこの中を覗いてみると、そこはねずみの御殿で、じさは毎晩、その中に通ってねずみに歓待される。ところが、ばさがふくべっこに、辛い南蛮味噌を詰め込んでしまい……。
これまでの「おむすびころりん」とはかなりちがったお話なのだが、これが抜群に面白い。まず、“となりのじじい”型でなく、夫婦の話になっていて、夫婦の微妙な心の綾が描かれている。ふくべっこの中でねずみに足や肩を優しく揉んでもらい、「ばさとちがうな」と漏らすじさ。毎晩帰りの遅いじさに、面白くないとヤキモチを焼くばさ。お話の最後には、人間が侵した環境破壊を描き、まさに現代への警告のようなものまで感じさせ、ドキリとさせる。昔話ではあっても、松谷みよ子ならではの力量を感じさせるお話に仕上がっている。
丸木俊の絵は、夫である丸木位里にどことなく似ている雰囲気を持ちつつ、墨絵とは違った赤が印象的な洗練された色遣いで、ふくべっこの中にある摩訶不思議な異境へと誘ってくれる。
それにしても、お碗の湯船につかっている年寄りねずみの、何と気持ちよさそうなこと!
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はぁ〜、長くなってしまいました。これで、「おむすびころりん」篇はおしまい。
ここまで「おむすびころりん」にお付き合いいただきまして、ありがとうございます。