クリスマス・イブ当日のご紹介は、The Nitghe Before Christmas シリーズの中でも一番気に入っている、私の宝物絵本をご紹介。1963年にフレーベル館から出版された人形絵本『サンタのおじさん来てくれた』。1967年には英語訳の洋書版が輸出され、アメリカのCROWN PUBLISHERS, INC.から出版されている。
私は2、3年前から古い人形絵本に夢中なのだ。人形絵本というのは、物語に合わせて人形と人形のサイズに合わせたミニチュアの装置を舞台のように設置して写真撮影したものを絵本に仕立てたもの。アニメーション映画のワンシーンを絵本にしたフィルムブックとは違って、絵本だけのために作られたもので、1950年代から60年代頃にかけて、トッパンの人形絵本として大流行した。
この絵本の仕掛け人は、作家の飯沢匡と画家の土方重巳で、CGなどなかった60年前に作られたこれらの人形絵本は、すべて手作業で作られている。人形は川本喜八郎、辻村ジュサブロー、与勇輝、紙谷元子など、後に日本を代表する人形作家となった人々の若き日の作品だ。衣裳や装置も綿密な時代考証のもと、驚くほど精緻なものが作られている。そしてなにより、絵本そのものがキュートでとにかく可愛いのだ! 人形絵本のビジュアル面をすべて手がけていた土方重巳のセンスには感嘆するばかりである。
人形絵本の説明が長くなってしまったが、改めて『サンタのおじさん来てくれた』のご紹介を。フレーベル館からは「トッパンの人形絵本」シリーズとして1960年代に40冊の人形絵本が出版されているが、定価は100~120円。この人形絵本は200円と少々高価だが、表紙は柊の飾り罫で華やかに飾られ、見返しには「ジングルベル」の譜面も印刷されている。人形の衣裳や装置も豪華だ。人形と装置のデザインはもちろん土方重巳で、人形製作は辻村ジュサブロー。原作はムーアの詩だが、構成と文を担当した飯沢匡は、最終ページに次のように期している。
この原詩は、前世紀のアメリカの作品で、今日の日本のこどもたちには理解できぬ点もありますので、かなり自由に訳したことをお断りします。(飯沢)
この注意書きとおり、例えば日本ではあまり馴染みのない子どもたちの「sugarplums dannce」の夢とか、両親のナイトキャップなどの日本語訳はどうなっているのか、いつも興味を持っているのだが、ここでは見事に省略している。だが、韻文調の詩情豊かな訳がクリスマスの楽しさ、サンタクロースの不思議さを上手く表現していて、まだ家庭行事としてのクリスマスについて情報が少なかった当時(なにしろ、お父さん向けのキャバレーでのクリスマスというのが盛んだった時代なのだ!)に、19世紀後半のアメリカの上流家庭のクリスマスの雰囲気をよく伝えている。そして、人形の衣裳や装置の見事なこと! なにしろ、クリスマスツリーの飾られている部屋のドアーが半開きになっていて、ドアーの向こうの廊下の壁や床まで、きちんと作られているのだ(ストーリー上ではドアーを半開きにする必要性はないのだが、半開きにすることで家の奥行き感が出て、室内装飾にもリアル感が醸し出される)。表紙のサンタクロースが入ろうとしている煙突の古煉瓦や積もった雪まで、とにかく凝りまくっている。もう、絵本の隅から隅まで何一つ見逃さないぞと、いつまで眺めていても飽きない絵本なのだ。
大好きな人形絵本とクリスマスの組み合わせ……まさに、私にとっては正真正銘の宝物です
もう1冊の人形絵本『CHRISTMAS SONNGS AND VERSE』は1971年にニューヨークのGROSsET & DUNLAP Publishersから出版されたもの。今年の秋に都内のギャラリーで開催されていた人形展で売られていたのだが、土方重巳のデザインではないようなので、一瞬、買うかどうか迷った。でも、クリスマスの人形絵本は珍しいかもしれないと思って、ついでに買っておいた(すでにギャラリーで飯沢・土方コンビの人形絵本を何冊も買いこんで予算オーバーしていた私は、金銭感覚がいささかなくなっていた……今冬のコートは買えないなぁと、ちらっと思ったことは内緒!)。
あまり期待していなかった人形絵本だったのだが、帰宅してから中を開いて驚いた! ムーアの名前はどこにもでていないのだが、VERSEはThe Night Before Christmasで、その他にクリスマスソングの譜面がいくつか付いている。そしてPictures by T.IZAWA and K.KAWAMOTOとなっていたのだ。つまり、飯沢匡の構成で人形とデザインは川本喜八郎が手がけていたのだ。洋書版の場合、ほとんどがPictures by IZAWA and Hijikataであり、たまにプロデューサーとしてIZAWAの名前だけのこともあるが、人形作家の名前が記載されていることはまずない。ほとんどの場合、同じ内容の日本語版の奥付を見て人形作家を知るのだが、この絵本に限っては川本の名前が出ていた。なんらかの事情でデザインも川本が担当したのだろう。『サンタのおじさん来てくれた』の表紙と見比べても、かなり雰囲気が違うし、人形の衣裳や室内の装置なども、こちらのほうが大人っぽく豪華な作りになっている。ただ、サンタクロースからのプレゼントは『サンタのおじさん来てくれた』に使われていたのと同じテディベアや汽車やラッパのおもちゃなどが『CHRISTMAS SONNGS AND VERSE』にも使われていて、そんなところを見つけるのも、コレクターの密かな楽しみである。
最後にもう1冊、クリスマスをテーマにした人形絵本をご紹介しよう。飯沢・土方コンビニよる人形絵本がブームになっていた頃、エンゼル社から人形絵本のシリーズとして、エンゼルブックが出版されていた。残念ながら、エンゼルブックには出版年が記載されていないのだが、トッパンの人形絵本とほぼ同時代と考えられているようだ。このシリーズの20作目が堀尾青史・文/たくみ工房・美術/酒井善衛・撮影の『ジングルベル』。
クリスマスの行事も、いまはすっかりおなじみになってしまいました。宗教的な意味を別にしても、よい心とよいおこないに対しては、かならず、果報があると信じたいし、また、そうあらねば不自然だと思います。よい子にはよいおくりものとして、この絵本をつくりました。(裏表紙のかいせつより)
すっかりおなじみといっても、今から約半世紀前の当時も今も、日本のクリスマスでおなじみなのは、日本特有のデコレーションケーキやプレゼントなのだろうが、サンタクロースやクリスマスツリーなども風俗としては定着していたのだろう。
『ジングルベル』には、世界の童話 北欧童話のサブタイトルが付いているが、特定の国の物語ではないようで、「かいせつ」にあるように、クリスマスの前の晩、迷子の子犬を助けた3人の子どもたちにサンタクロースがプレゼントをもってきてくれるというお話。サンタクロースはムーアの詩の一節から抜け出てきたかのようなたたずまいだ。北欧童話といっても、ジングルベルはもともとアメリカの歌だし、子どもたちは黒髪に黒い瞳で日本人のようにも見えるし、全体に衣裳も装置も土方デザインのような綿密な考証は感じられない。でも、「ちょっと安っぽい」と言ってしまうと身も蓋もないのだが、絵本全体から滲み出てくる“なんとなく洋風”とでもいうような和洋折衷感が、昭和レトロ好きにはたまらない。子どもたちも子犬も、プレゼントの人形やぬいぐるみも、昭和ぽさ100%(当たり前だが……)で、“ザ・ノスタルジー”とでも名付けたくなってしまうような、愛しい人形絵本である。