京都書店巡り(プチ)

090626_12290001 京都の版元と関西在住の著者との打ち合わせのため日帰りで京都へ。午前中に地下鉄の丸太町駅近くの版元で打ち合わせを済ませるとちょうど正午。次の著者とのアポが午後2時だったので、きっちり2時間ほど自由時間となる。8ヵ月ぶりの京都だったので、いろいろと行きたいところがあったのだが、とにかく時間が限られていたのと、次の打ち合わせ場所が版元の近くのホテルだったので、あまり遠くまでは移動できない。どうしようかと考えながら二条通をふらふらと寺町まで歩き出す。
 この通りを歩くのは初めて。御池通りはもちろんのこと、三条通よりもひっそりとした一通の狭い通りには昔ながらの昭和の雰囲気を保った商店があると思えば、町家を改造した雑貨屋やアンティークの家具店や手作りののアクセサリー店などもあり面白い。
 そんな通りで目を引いたのが、写真の「檜書店」の看板。
 書店があるようなメインストリートではなかったので、ちょっとびっくり。看板もいかにも老舗の書店を思わせる。店はマンションの1階でまだ開店してそれほど日が経っていないような雰囲気だったが、さっそく中に入ってみた。そしてまたびっくり……! 謡本出版・能楽専門出版社だったのだ。
51wo4j6q2il_sl500_aa240_ 出版社だけど、自社の出版物や能のチケットなどの販売をしているようだったが、あれま、どうしましょう、私はお能の知識はまるでなく、興味もあまりない。でも、初めての書店では記念に何か1冊買うことに決めている。これといった書籍がないときは、文庫本の古典を買うのだが、ここにはそういうものは置いていない。専門書なのでどの本も高そう。どうしよう〜???
 が、幸いなことに我が父上はお能が大好き。最近は外出自体めったにしなくなったのだが、10年くらい前までは薪能などによく出かけていたし、能関係の本も揃えている。そうだ、父への京都土産にしようと、雑誌「観世」2008年 08月号を買うことにした。何を選んでよいのか分からなかったのだが、840円と安かったし、雑誌なら無難だろうということで。
 お金を支払いながら、お店の方にいろいろとお話を伺うと、檜書店は350年前の万治2(1659)年創業という老舗。江戸時代初期から続いているとは、さすが京都やね。2年前まではすぐ近くに江戸時代からの店舗があったそうだが、今はそこは更地になっているとか。昔の店舗を見てみたかった。
 お店の構えも普通の書店とは違い、棚には謡曲などの和本がぎっしりと積まれていた。レジの近くには新刊が並んでいて、その中で目についたのが『まんがで楽しむ 能・狂言』。51svkekk06l_bo2204203200_pisitbstic
 まんが! これなら私にも読めるかも。父の蔵書の能入門書などを何冊か読んだことはあるのだが、ことごとく挫折して読むのを諦めていた。でも、マンガならいけるかもしれない。さっそく購入。1050円(税込)。
 ところで、Amazonのこの本の表紙は1996年刊行の初版のもの。私が買ったのは2008年の新装版第二刷で、表紙カバーのイラストが違っている。Amazonのサイトには「三浦 裕子 (著), 増田 正造 (監修) 」となっている。購入した本の表紙カバーには監修は同じく増田 正造だが、文/三浦 裕子、漫画/小山賢太郎とある。“まんがで楽しむ”とタイトルにあるくらいなので、作家の名前はサイトでもちゃんと入れてほしいものだ。

 看板の写真はお店の方に撮影の許可をいただき撮影。再び寺町通りにむかって歩きだすと、さきほどのお店の方のお話に出ていた江戸時代の店舗跡が更地になったままあった。2年前はどんな姿だったのだろうか。

 ほどなくT路地に突き当たり、寺町到着。左折して、おなじみの三月書店へ。4、5年ぶりに訪れた三月書店はあいかわらず一般書店とは思えない充実の品揃え。老舗古書店のようなこだわりのある棚作りは見ていてあきない。でも、前回訪れたときよりも、新刊バーゲン本が増えたような気がする。51j70y1tpbl_sl500_aa240_その中から選んだのは『日本美術 読みとき事典』瀬木慎一著、里文出版、1800円がバーゲンで756円(税込)。ただし、こちらは2002年刊行で、現在は2007年に新装増補版が出ている。だからバーゲン本になっていたのかな?
 三月書店ではまだまだ欲しい本もあり、時間が欲しかったのだが、もう午後1時半になっていたので、時間切れ。久しぶりの京都書店巡りは正味1時間足らずで2店のみのプチ巡りとなった。

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好きなコミック

51xsnjhwpgl_sl500_aa240_ コミックはあまり読まないのだけど、最近読んで印象的だったのはこの2冊。樹村みのりの『見送りの後で』2008年1月、朝日新聞社より刊行、580円(税抜)。
 ベテラン樹村みのりの新作が出ていることを知ってびっくり。すぐにネットで検索して注文した。著者は1964年に14歳でデビューしている。年を重ねる中で、その世代でなければ描けない世相を反映した作品を残している。もう何年も新作を読んだことがない寡作な作家なので、新作が読めたことがまず嬉しい。こういう大ベテランが第一線で活躍しているということは、やはり日本はマンガ大国なんだなと、実感する。
314kpu0frzl_sl500_aa204__2 こちらは初めて読んだ小玉ユキの『羽衣ミシン』2007年8月、小学館より刊行、420円。これはいいわ! すっごく好きな画風、作風。「鶴の恩返し」の現代版というか白鳥版。最近のコミック事情はまったくわからないのだけど、こういう作品に出会うと、もっと読んでみたいなと思ってしまう。

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菊地信義・講談社 文芸文庫装幀展

 銀座の教文館4階のエインカレムで開催していた「菊地信義・講談社 文芸文庫装幀展」を見てきた。
 「創刊以来21年にわたる文芸文庫の表紙カバー並びに特装版の展示、および即売会」ということで、文庫カバーを広げた状態で280点が展示されていた。
 講談社文芸文庫のカバーは白色のカバーにパステルカラーが薄くグラデーションをかけて引いてあって、写真もイラストもない、タイトルだけのシンプルで大人しいデザイン。初めて見たときは、カラフルな文庫本カバーの中で、その控えめな上品さが新鮮だった。
 展示は「箔の時代」「現代日本のエッセイ」「シャドーの時代」「戦後短篇小説再発見 短篇小説集」の5つに分類されている。今回の展覧会では、なんと同じようなパターンで280点ものデザインがあったことに驚いた。文庫カバーという定められた小さな空間と、デザインや色の統一感、バーコードやキャッチコピーの位置や文字数など、いろいろな制限の中で280パターンも作るのは大変だけど面白そうだ。
516s8185k2l_sl500_aa240_ 280点の中に小沼丹の小説がかなりあったのが嬉しい発見で、2、3年前に初めて『黒いハンカチ』を読んで、この短篇の名手のファンになったのだが、この1冊以外まだ読んでいなかったので、これからの楽しみができた。

 会場はとても小さなスペースなのだが、壁に文庫カバーを広げた状態でずらっと280点並べてあり、その下に机が並べられて、文庫本が数冊ずつ重ねて置いてあった。机の文庫本は展示と販売も兼ねていたようだが、やはり、本にカバーを纏わせると、文庫カバーも本来あるべき姿に戻ってデザインもしっくりとその本に沿っているように見える。
 復刊として20点だけ特装版が作られていたが、赤のクロスカバーに白い函入りでとても素敵なデザインだった。あれは販売はしないのかな。レジの人に聴いてくれば良かった。

41nd2frnghl_sl500_aa240_ 他に展示で印象的だったのが、横光利一の『旅愁』と埴谷雄高の『死霊』
 『旅愁』はまさにそのものずばりの旅心を誘われるようなタイトルデザインで、感心した。「旅愁」という2文字が縦長の長体になっていて、それにシャドーをつけると、たちまち晩秋の高原を一人で旅しているような、やるせない雰囲気が漂ってくる。不思議だ。

418d1vfkfwl_sl500_aa240_ 『死霊』はこの文芸文庫シリーズでは唯一の黒色のカバーで、これもタイトルからイメージされる禍々しさを“いかにも”感で表現している装幀だ。残念ながら2作品とも未読ですが……。

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ネズミはひとり森のなか

 クリスマス本特集の最後の1冊を何にするか、かなり悩んだのだが、ネズミ本で始まった(そしてまだ終わっていない!)今年を記念して、ネズミが主人公のクリスマス物語を探してみた。
 世界で一番有名なネズミといえばミッキー・マウス。ディケンズの短編小説が原作のアニメ「ミッキーのクリスマスキャロル」が有名だが、ディズニーアニメ小説版『ミッキーマウス名作集』で書籍化されているし、幼児向けの絵本にもなっている。
 他にもガブリエル バンサンのくまのアーネストおじさんとネズミのセレスティーヌとのシリーズで『セレスティーヌのクリスマス』 『ちいさな もみの木』があり、キャサリン ホラバードのねずみのアンジェリーナシリーズでは『アンジェリーナのクリスマス』がある。これらの有名な人気者ネズミたちをさしおいて、今年のクリスマス本特集のラストを飾るのは、名もない恥ずかしがり屋のネズミの女の子の物語。

Ehon_22714 32ページという薄さ、18.8×15cmの判型の、小さな絵本『ネズミはひとり森のなか』。トニー ジョンストン著、ダイアン スタンレー絵、小川 仁央訳で、1987年12月に評論社から刊行、830円(税込)。
 主人公は森の中の小さな家に一人住む、はずかしがりのネズミ。名前もわからないし、なぜひとりぼっちなのかはわからない。彼女(女の子ネズミ)の心の扉を開いたのは、聖歌隊の楽しそうな歌声……文中に“クリスマス”という言葉は1回でてくるだけ。詩のような短い文が綴られ、控えめな色遣いの挿絵、そうしたささやかな絵本なのに、ストレートに響いてくるクリスマス・スピリット。

 The Spirit of Christamas is Peace,
 The Joy of Christmas is Hope,
 The Heart of Chrisitas is Love.

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 なんとか25日間更新できた3回目のクリスマス本特集。
 今年は秋の訪れとともに早々と準備をしていたつもりだったのに、結局、集めた本を読むのに追われてしまった。画像だけの更新が続き、まとめて紹介を書いたりしてお見苦しいことが多々ありました。スミマセン!
 来年は、もっと余裕をもってやりたいものです。

 それでは、良いクリスマスをお過ごしください。

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キリスト物語

001 今回のクリスマス本特集では、書店や図書館で今まで読んでいなかった絵本や書籍を探したのだが、その中で一番嬉しい出会いとなったのが、この『キリスト物語』だ。
 初山滋の本をネットで検索していて偶然この本の存在を知り、浜田廣介・作、初山滋・画という組み合わせに喜び、さっそく、1982年12月に刊行された新版(奥付では改訂第1刷となっている)の古書をネット購入した。

 著者・浜田廣介(1893〜1973)の娘であり、>『父浜田広介の生涯』などの著書もある浜田留美が「新版あとがき」を書いているが、それによると、昭和2年(1927)に、楠山正雄(1884~1950、大正・昭和期の児童文学者、演劇研究家)のすすめで、この本の執筆に取りかかった廣介は、3年かけて聖書を研究し、昭和5年(1930)のクリスマスに冨山房から出版した。これが“幻の名作”といわれる本書の初版だ。
 国際子ども図書館のデータベースで検索してみたところ、「新訳絵入 模範家庭文庫」というシリーズの1冊で、544ページ、サイズは21×16cm、2円80銭とあった。その後、昭和25年(1950)に同じ冨山房から再版されているが、子ども図書館のデータには「544p 図版 ; 19cm」とあるだけなので、値段等の詳細はわからない。
 そして廣介が亡くなってから9年後の昭和57年(1982)に、新版としてみたび冨山房が出版。ページ数は旧版と同じ544ページで2,300円。当時の児童文学書としてはかなり高価な本である。
 また、留美氏は旧かなづかいを現代かなづかいに改め、時代とともに変わったいくつかの文言や、文語調の聖書の引用文をわかりやすく書き改めたとしているが、「私はたえず、著者の持ち味——ことばのリズム、日の光のうつろいや草木などの自然の目に見えるような情景描写、人々のしぐさににじみ出るユーモアなど——をそこなうことのないように配慮しました。(本書あとがきより抜粋)」とあり、親子ならではの深い愛情を持って新版に取り組んだことが伺える。
 廣介自身も本書の巻末にある「初版のはしがき」で、執筆にあたって外国の聖書物語を読んだが、それをそのままに訳すのではなく、「自分自身の想像をかなりに加え、説話の上にも、あんばいを計ってみました。(本書はしがきより抜粋)」と自ら語っている。
61zv10kpgxl_sl500_aa240_ 『泣いた赤おに』『むく鳥のゆめ』などの“ひろすけ童話”で知られ、坪田譲治、小川未明と共に“児童文学界の三種の神器”とまで呼ばれた浜田廣介が「自分にとって、かつてなかった大きな仕事(本書はしがきより抜粋)」と振り返っているだけあって、500ページもの大長編だが、平易でありながら美しい文体で一気に読ませてくれる。
 その上、大好きな初山滋の挿絵がところどころに載っているのだから、私にとっては宝物のような本である。今年のクリスマス本特集の忘れられない1冊となることだろう。

31gkg59421l_sl500_aa200_ なお、本書の新刊は品切れになっているため、古書で入手するか図書館等で探していただくしかない。私は神田古書センターのみわ書房から、26年前に刊行された定価2,300円(当時は消費税なし)の本書を、2,100円(税込)で購入したが、表紙カバーなしで帯はやや傷んではいたが、本体も函も大変良い状態の美本だった。ネット書店では、かなり傷んだ古書がコレクター物として驚くような高値となっている場合もあるようだ。
 戦前から80年間にわたって読み継がれてきた浜田廣介と初山滋の『キリスト物語』……平成版が近い将来に刊行され、新刊が手軽に入手できるようになることを、クリスマス・イブに祈りたい。

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クリスマスのものがたり

483400455409_aa240_sclzzzzzzz_ ホフマンの『聖書物語』より前に描かれたのが、1975年10月に福音館書店より刊行されたホフマンの水彩画による『クリスマスのものがたり』 (世界傑作絵本シリーズ―日本とスイスの絵本) (ハードカバー)。訳はしょうの こうきちで1,365円(税込)。ホフマンは同年の夏に亡くなっているので、本書が最後の絵本となった。私の持っている本は1999年の第27刷で、現在も増刷されているロングセラーだ。
 『聖書物語』とは違って全ページがカラー刷りで、ホフマンは絵だけでなく文も手がけていて、水彩画の柔らかなタッチで、受胎告知からベツレヘムの馬小屋でのイエスの誕生、ナザレへの帰還までが描かれている。

51ll3wlogal_sl500_aa240_ ホフマンは福音館文庫などでグリム童話も数多く描いているが、グリム童話の中でクリスマスを舞台にしているものは少なく、昨年紹介した『こびととくつや』はその数少ない中のひとつである。
 また、グリム兄弟は1812年のクリスマスに『童話集』初版第一巻を上梓しているそうで、日本でもクリスマスプレゼントにグリム童話集や絵本を選ぶ人が多いのではないだろうか。

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ホフマンの聖書物語

Ag004m 版画家として知られるフェーリクス・ホフマンのリトグラフによる聖書画集『聖書物語』。文はP. エーリスマンで、旧約聖書と新約聖書を小塩 節が抄訳している。1991年に日本基督教団出版局から刊行、2,625円(税込)。
 奥付のプロフィールも著者はホフマンのみとなっており、ホフマンのモノクロのリトグラフがページの3分の2を占めていて、A4サイズの大型(100ページ)ハードカバーの大人のための絵本といった感じである。日本基督教団が版元ということもあってか、聖書からの抜粋といった感じの短い文章が添えられている。しかし物語の展開が唐突で、たいへんわかりにくい。特に後半の新訳聖書の部分はキリスト教や聖書に造詣が深い人でないと、物語の前後の関係やイエスの言葉の意図がつかみにくいのではないだろうか。もう少し本全体を通して物語としての完成度を高めてほしかった。
 そうした文章を補っているのが、ホフマンの現代的で素朴なタッチの100枚のリトグラフである。特に旧約の「ダビデとドリアト」では、サムエル記の中のユダヤの若きダビデと闘うペリシテ人の戦士ゴリアトが、日本の戦国時代の武将のような鎧甲を身につけ、槍を手にしていて、面白い。イエスもほとんどの聖書物語や宗教画では長髪で髭をはやしているが、ホフマンのイエスは短髪で髭もなく、貫頭衣のようなシンプルな衣服を身に付けていて、時代や民族を特定するようなイメージはなく、現代の青年のようにも見える。

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ひつじかいの ふえ

5f96d0920ea0349fd87dd110_aa240_l Stepan Zavrelのクリスマス本をもう1冊。『ひつじかいの ふえ』『しずかなきせき』と同じくマックス・ボリガーとの名コンビによる絵本。村上博子の訳で1982年、女子パウロ会 より刊行されていたが、現在は絶版のようだ。当時700円(まだ消費税はなかった)だったが、Amazonのマーケットプレイスで2,000円(税抜、送料+340円)で購入した。
 むかし、むかし、「あの かた」を待っていた年老いた髭の羊飼い。彼の孫の男の子は、金の冠と銀の刀と緋色のマントを纏った「あの かた」に憧れていたが、意外にも聖夜に見たのは……赤ちゃんの笑顔が、金の冠や銀の刀よりも男の子の心を豊かに満たしたというお話。
 小さな男の子の憧れと期待と失望と怒りと喜び。少年の表情はほとんど同じなのに、微妙な匙加減で喜怒哀楽が描かれている。暗い色彩の夜の場面が続く中、やはり星や雪や羊や赤ちゃんの産着の白色が鮮やかに浮かび上がり、神秘的な雰囲気を漂わせている。
 訳者の村上博子が巻末に短い解説(「おとなのかたへ」)を書いているが、その中に“フランスの作家アナトール・フランスの「僕にできることは、これだけ」といって、マリア様の前で逆立ちしたピエロのお話を連想した”とある。日本語版の『しずかなきせき』はこの後の1998年に出版されているので、『ひつじかいの ふえ』のテーマが下地となっていたのかもしれない。

 なお、チェコ出身でローマのアカデミア・デレ・アルディに学び、現在はヴェニスに住んでいるStepan Zavrelは、シュテパン・ツァフレル、シュチパーン・ザヴジェル、ステファン・ザブレル、シュチェパン・ザブゼル(サヴゼル)、シュタパン・ジャヴェレル、ステパン・ザヴィールなど、日本語の表記が統一されていないので混乱するときがある。絵を見れば、一目で彼の作品だとはわかるのだけど。
 ちなみに、『しずかなきせき』はシュテパン・ザブジェル、『聖書物語』はシュチェパン・ザヴゼル、『ひつじかいの ふえ』はステパン・ザヴィールとなっている。

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レギーネ・シントラーの聖書物語

612ywrnqe8l_sl110_ ドイツ人のレギーネ・シントラーが著した『聖書物語 』は、スケールの大きな贅沢な本だ。1999年に福音館書店から刊行された、320ページ、29.4 x 25.6 x 3.6 cmで函入りの堂々たる大型本。価格は9,975円(税込)で、たぶん、このブログで紹介してきた本の中で一番高価なのではないだろうか? 私は図書館から借りてきたのだが、とにかく重かった! う〜ん、靴下にはとても入りきれないほど、大きさも価格もBIGなこの本を、サンタクロースさん、橇で我が家まで運んできてくれないかな……!
 この本の挿絵には、シュチェパン・ザヴゼルの素晴らしい絵がオールカラーでふんだんに使われている。昨年のクリスマス本特集でご紹介した『しずかなきせき』でザヴゼル(Stepan Zavrel)の絵に魅せられたのだが、この『聖書物語』の絵で、ますますファンになってしまった。生命力を感じるダイナミックでのびのびとした絵なのに、どこか神聖で静謐な雰囲気があり、この本では画集の趣さえ感じさせる。特に白色が素晴らしく効果的で印象に残る。
 私はザヴゼルの絵に無声映画と同じような魅力を感じる。描かれている人物にはあまり表情の変化がなく、皆無言で物語を紡いでいるような印象なのだが、それは彼らの瞳があまりにも力強く、静けさの中に多くのことを語りかけてくるからかもしれない。
 バチカンの強大な影響力や欧米の映画を見過ぎているせいか、クリスマスというと西欧風の雪景色が思い浮かんでくるのだが、本来はパレスチナ地方、つまり中近東、西南アジアのお話なのだ。ザヴゼルの描く聖書の世界は、まさにユダヤの王やエジプトの王女、荒れ野をさすらう羊飼いたちが描かれ、エキゾチックでありながらどこかアジア的で懐かしい感じがする。
51aae5f5t8l_sl110_  絵ばかりでなく、レギーネ・シントラー著、下田尾(しもたお)治郎訳の本文も、旧約と新訳との2部からなる聖書の世界を、わかりやすく面白く描いている。子ども(小学校高学年以上)から大人まで楽しめる本になっている。

レギーネ・シントラーのクリスマスの本は、他に『シモンとクリスマスねこ―クリスマスまでの24のおはなし』 (世界傑作童話シリーズ)が 下田尾の訳で1994年に福音館書店から刊行されている。51zj99cqr9l_sl500_aa240_ この単行本のほうは現在は品切れとなっていて、2003年には再刊として福音館文庫が出ているが、ジタ・ユッカーが描いた表紙絵は、真っ赤な表紙にしっぽの縞の数がちょうど24ある猫のフローラが描かれている単行本のほうが、だんぜん好きだ。

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手塚治虫の旧約聖書物語

21pbae25h8l_sl500_aa140__2 この特集でコミックを取り上げるのは初めてとなる、『手塚治虫の旧約聖書物語』。私が持っているのは1994年刊行のB5サイズ2,552円(税込)のシリーズで、他に1996年にB6サイズ各1,470円、1999年に文庫各880円、そして2008年には全3巻1セット7,655円(いずれも税込)が刊行されているし、「アニメ絵本 手塚治虫の聖書ものがたり」という絵本シリーズもある。版元は全て集英社。
51mq8g3xsjl_sl500_aa240_ このコミックは、1984年にイタリアの国営放送RAIからの依頼で制作されたテレビアニメシリーズを書籍化したもので、「天地創造」「十戒」「イエスの誕生」の3巻からなる。
 アニメは85年から制作開始となったが、残念なことに1989年(平成元年)2月9日に手塚治虫が亡くなり、最後のアニメ作品となってしまう。その後、出崎 統(おさむ)がアニメ監督を務めて92年に作品が完成し、93年にイタリアRAIで放送されている。
51qb991ex6l_sl500_aa240_ 私はアニメの制作方法などはよくわからないのだが、書籍化されたものは全ページカラー印刷で美しくはあるが、あくまでも映像として作られたものなので、マンガ本として見るとコマごとの解像度が不揃いで、とても気になる。また、当然ながら吹き出しはマンガ本用に書き加えられているのだが、版ズレとなっている箇所もある。
 細かいことを気にし出すときりがないのだが、膨大な旧約聖書から有名なエピソードを中心にコンパクトにまとめ、親しみやく個性的なキャラクターを作り出し、子狐コロを狂言回しに使うなどして、様々な工夫をこらしている。
51a75c1rg0l_sl500_aa240_ また本文中に「聖書物語ギャラリー」として旧約聖書の世界をテーマにした古今東西の名画と解説が掲載されていて、これも楽しめた。見返しを使った地図や年表も参考になったし、各巻末の解説代わりのエッセイ(第1巻「聖書テレビシリーズ化にあたって」松谷孝征、第2巻「聖書と私」矢代静一、第3巻「歴史から見た中東和平」水口章)も充実している。
 サンタクロースやツリーやプレゼントなどが登場する、クリスマスを楽しく過ごすという「クリスマス本」もいいけれど、たまにはクリスマスの原点とはなんなのか、聖書の世界を覗いてみてはいかがだろうか。手始めに、わかりやすく気軽に楽しめるコミックはお薦めだ。

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シュトルーデルとシュトレーン

513dehqj19l_sl500_aa240_ 今回のブログのタイトルを読んだだけで、おおかたの方はおわかりだと思いますが……シュトルーデルとシュトレーンを間違えてしまいました!
 両方ともお菓子だけど、シュトルーデルは「ねり粉をうすく、うすーくのばして、あまく煮たリンゴやクルミをつつみこんで、くるくるたたんでオーブンへ(本文抜粋)」どちらかというとアップルパイにやクレープのような感じのオーストリアの伝統菓子。ユダヤの伝統菓子という解釈もあるみたい。
 一方シュトレーンは小麦粉の中に、レーズンやオレンジピール、レモンピール、アーモンドなどのドライフルーツを入れて焼き上げ、仕上げに粉糖をたっぷり振りかけた、ドイツの伝統的なクリスマスのお菓子。どちらかというとパンに近い食感。
 ドイツ語がわかれば違いは歴然としているんでしょうけど、なんかうろ覚えだったので、野毛のブックカフェ風信で『シュトルーデルを焼きながら』
ジョアン・ロックリン著、こだまともこ訳、井江 栄・絵、2000年に偕成社より刊行、1,365円(税込)を見つけたときは、てっきり“クリスマスのお菓子をテーマにした小説”と思いこんで、これはめずらしい、クリスマス本の特集で紹介しようと、いそいそと買い込んでしまった……。
 しかし、クリスマスなんて全然、でてきませんでした! ユダヤ人一家の物語なので、ユダヤ教の過越(すぎこし)のお祭りはあるけど、クリスマスはキリスト教徒の行事。でも、すっごく面白い、コレ!!
 「黒海のほとりにある、ロシアの街。オデッサというその街の家の台所(本文抜粋)」から始まる、100年にわたるユダヤ人一家の物語。楽しいときも悲しいときも、一家はシュトルーデルを作りながら、一族のお話を紡いでいく。シュトルーデルにはお話がどっさりつまっている。ヨーロッパでのポグロムも、ホロコーストも、新天地アメリカでの苦難の日々も……時代を超え、人々の哀しみや苦しみを超え、シュトルーデルは母から子へ、子から孫へと伝わっていく。
 悲惨な歴史を通奏低音のように奏でながらも、今を生きる子供たちのイキイキとした日常、アメリカを象徴するかのような野球への情熱など、未来への希望を失わずに、生きることの厳しさと素晴らしさを伝えてくれる。
 世代ごとのシュトルーデルのレシピが載っていたり、一族の系図(1940年代没の、なんと多いことか!)もあったり、ノスタルジックなイラストは伊江栄によるものなので日本版だけかもしれないが、よく雰囲気を出している。中島浩子による装丁も素晴らしい。
 クリスマスとは直接関係はないが、とても素晴らしい小説なおので、ぜひ一読をお薦めしたい。
 明日からは、このお話のルーツともいえる、ユダヤ民族の興亡を聖書物語を通して紹介していきたい。

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追跡のクリスマスイヴ

51tsz00c54l_sl500_aa240_ 『クリスマス・ボックス』と同じく1995年アメリカ年間ベストセラー小説にランクインしているのが、『追跡のクリスマスイヴ』メアリ・H・クラーク著、深町真理子訳、1996年刊行の新潮文庫。438円(税別)。クリスマスイブで賑わうニューヨークのマンハッタンを舞台にしたミステリー。著者は「サスペンスの女王」と呼ばれるメアリ・H・クラークで、勧善懲悪に徹したスピード感溢れる展開と視覚的な描写力で、あっという間に読み終えることができる(結末がちょっとあっけない感じはするが)。 この文庫は現在は絶版になっているが、古書店でよく見かけるので入手しやすい。
 クリスマスとミステリーというのは、神聖な祝日におぞましい事件が起きるという意外性が受けるのか、数多くのミステリー作家に取り上げられている。クリスマスがタイトルに付いている有名なミステリー作品としては、アガサ・クリスティーの『ポアロのクリスマス』『クリスマスの悲劇』やR・D・ウィングフィールドの『クリスマスのフロスト』など数多くある。来年の特集で紹介したい(ものです!)。

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クリスマス・ボックス

 今年のクリスマス本は絵本より単行本や文庫本などの読み物系が多くなりそうという当初の予定が大きく外れ、例年通り絵本が多くなってしまった。
 というのも、やはりクリスマスをテーマにした絵本に心惹かれるものが多く、それに比べて読み物系は当たりはずれが大きかったということが影響していると思う。それと、書籍は絵本よりページ数が多いので読むのに時間もとられ、毎日更新となると読書の時間を確保するのがかなり厳しかった。これは来年への検討事項。
 言い訳はこのくらいにして、今年のクリスマスに向けて読んだ書籍をご紹介していこう。

511zsyfwj6l_sl500_aa240_  『クリスマス・ボックス 』リチャード・P. エヴァンズ著、笹野洋子訳、1995、1,365円(税込)。講談社文庫版は2005年に刊行されていて、私が読んだのは文庫版のほう。文庫の装丁はクリスマスカラーのグリーンで可愛らしくまとめてあるが、単行本はエンジ色で英文も日本語も書体など厳かなイメージを醸し出している。

41a9mw4xe6l_sl500_aa240_  “世界が涙した感動のベストセラー”“全米ベストセラー”というキャッチコピーの本なのだが、確かに1995年のアメリカ年間ベストセラー小説の第4位になっている(「アメリカ年間ベストセラー本小説(フィクション)トップ10ランキング」より)。文庫版訳者あとがきによれば、世界中で1100万部以上売れたとある。もともとは広告会社の役員だった著者が1992年に自分の娘のために書いたこの物語は、20部コピーして親戚や友人に配られたのだが、評判がよかったので初版7000部を自費出版し、1995年に大手のサイモン&シュスター社が420万ドル(約4億2000万円……関係ないけど、今の円高だと5千万円くらい安い!)で北米の版権を獲得してベストセラーとなっていった。
 何万部売れようが、版権がいくらだろうが、このクリスマス特集にはあまり関係ないのだが、こう長々と書いてしまうのは、どうにも、この本がどうしてそんなに売れたのか、よく分からない……からなのだ。
“全米が泣いた”本とは、どうも相性が悪いらしい。『マディソン郡の橋 』の時も、知り合いが本屋で立ち読みして号泣してしまったというのを聞いて、すぐに読んでみたのだが、ちょっと……だめだった。
 「この世で最初のクリスマスの贈り物はなんだったか」というのが本書のテーマでもあり、ちょっとした謎解きのキーワードとなるのだが、テーマの重さに比べて小説のプロットが弱いと思う。クリスチャンでないと理解できない“異文化”の壁もあるのかもしれない(文化や宗教を越えて、普遍的な感動を与えてくれる本も数多くあるが……)。
 それでもこの本をご紹介したのは、「つかのまでしかない貴重な子供時代が消えていこうとしている」という一文に心動かされたからだ。仕事が忙しく小さな娘と共に過ごす時間が少ない主人公は、クリスマス・ボックスとその持ち主であった老婦人がもたらしてくれた“奇跡”で、「(娘を)わたしの腕に抱けるのは、ほんのつかのまの貴重な時間であり、そのときだけ時が止まるのだ。(本文抜粋」と思い至る。
 子供時代は本当にあっという間に過ぎていく。だからこそ子供時代のクリスマスを大切にしてあげたいし、クリスマスを通して親が子に寄せる思いは、子供の一生を支えてくれるものになると思う。そういうことに気づかせてくれるのが、この本なのだ。子育て中の働くパパとママに読んでいただけたらと思う。

〈おまけ・1995年アメリカ年間ベストセラー本 ノン・フィクショントップ10〉
1『原告側弁護人』 (上巻) (下巻)ジョン・グリシャム
2『ロスト・ワールド―ジュラシック・パーク』マイクル・クライトン
3『五日間のパリ』ダニエル・スティール
4『クリスマス・ボックス』リチャード・P・エヴァンズ
5『落雷』〈上〉〈下〉 ダニエル・スティール
6『聖なる予言』ジェームズ・レッドフィールド
7『ローズ・マダー』 (上巻)(下巻) スティーヴン・キング
8『追跡のクリスマスイヴ』メアリ・H・クラーク
9『政治的に正しいクリスマス物語』ジェームズ・フィン・ガーナー
10『ホース・ウィスパラー』 (上巻)  (下巻)ニコラス・エヴァンス

 映画も大ヒットした『ロスト・ワールド―ジュラシック・パーク』の原作者マイクル・クライトンMichael John Crichtonは、今年11月に亡くなっている。

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サンタクロースっているんでしょうか?

 51h87718grl_sl500_aa240_ キヨノサチコがノンタンシリーズの新作でサンタクロースを取り上げようと決めた頃に出会った本が、『サンタクロースっているんでしょうか?』中村 妙子・訳、東 逸子・絵、840円(税込)。
 この本を読んだキヨノは、「ほらね、サンタクロースっているでしょう」という気持ちをこめて、『ノンタン!サンタクロースだよ』を描いたという。そして「その一言で子どもの世界は果てしなく広がり、その子は生涯、夢をもつことができると思います」と、自著の「作者のことば」で語っている。

 今から111年前の1897年9月21 日にアメリカの「ニューヨーク・サン新聞」に掲載された社説は、8歳の少女が同新聞社に投書した質問へ、論説委員のフランシス・チャーチが返事として書いたものだった。あまりにも有名なこの社説をそのまま1冊の本にしたのが本書。2つの世紀を経た111年後、大不況の嵐の中で毎日辛い事件ばかりが報道されている今だからこそ、この小さな本の持つ大きな意味が胸を打つ。

 なお、この表紙カバーは、2000年11月27日に刊行された〔改装版〕のもの。初版は1977年12月に刊行されている。私が持っている『サンタクロースっているんでしょうか?』はこの旧版で、1981年12月19刷、600円。判型とタイトルの書体は同じだが、絵を担当した東 逸子は1986年に表紙カバーと挿絵を全面的に書き直したようだ。
 旧版の表紙絵はサンタクロースが左手にプレゼントを、右手に羽ペンを持ち、鼻眼鏡を掛けて笑っている。とっても庶民的で砕けた感じのサンタクロースだ。改装版はずいぶん気品と威厳に満ちたサンタクロースとなっている。中面の挿絵も書き直されているようなので、旧版と比べてどういうふうに変わったのか、機会があれば比べててみたい。

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ノンタン!サンタクロースだよ

51epftttghl_sl500_aa240_ 今回はいつもとちょっとちがったテイストの 『ノンタン!サンタクロースだよ 』
 この絵本はかなり昔から児童書売り場に置いてあるのを目にしていたのだが、私がせっせと絵本をプレゼントしていた甥っ子たちが幼児の頃にこの「ノンタンシリーズ」に興味を示さなかったので(彼らは仮面ライダーやウルトラマン、怪獣の熱烈なファンで、絵本もそういった戦闘系ばかりになってしまった!)、今まで読んだことがなかった。
 というより、原色を多用した単純な配色や太めの描線で描かれたアニメ調のキャラクターっぽい図柄に抵抗があって、私自身が素通りしていたのだ。ミッフィーなど、小さな子どもにとって単純な配色や描線が一番わかりやすいと聞いてはいたのだが、どうも好みではない。このブログで紹介する絵本も、こどものための絵本というより、大人の好みの絵本が多くなる。だから、ここに「ノンタン」が登場したことに驚かれている方もおられるかもしれない。
 でも、まぁ、一見は百聞に如かずという言葉そのもので、この機会に初めて本書を手に取り、「ノンタン」の魅力に気づいた次第である。

 「ノンタン」の作者であるキヨノサチコさんが2008年6月18日に亡くなられたことを報じた新聞を読んだのが、12月10日だった。朝日新聞の朝刊にはノンタンのカラーイラストとともにキヨノさんの訃報記事が掲載されていて、生活面にも「ノンタン、元気に生き続けて」という関係記事があった。
51b9gefgkql_sl500_aa240_それを読んで初めて、ノンタンの作者であるキヨノさんのお名前を知った。1976年にシリーズ第1作の『ノンタンぶらんこのせて』以来、約40巻計2,800万部が刊行され、7作目の『ノンタン!サンタクロースだよ』だけでも193万部(2007年9月現在)の大ベストセラーだ。それなのに、今まで他のキャラクターものと比べて作者の名前があまり表に出てこなかったのは、制作サイドは黒子に徹するべきというキヨノさんのお気持ちによるのだろう。今回も、「私がいなくなっても、ノンタンは元気に生き続けるから」というご本人のご希望で、半年間、訃報が伏せられていたという。
 書店で『ノンタン!サンタクロースだよ』を見かけて新聞記事を思い出し、初めて本書を手に取ってみた。さして最初のページ、クリスマスツリーを背に靴下を持って笑っているノンタンの笑顔を見た途端、ノンタンが長い間、小さな子どもたちに愛され続けてきた理由が、わかったような気がした。邪険のない、ほんとうに愛らしい笑顔だった。

 お話は、ノンタンがプレゼントをお願いしようとサンタクロースを探すのだが、うさぎやくまやぶたなど、ノンタンの仲間にはそれぞれのサンタがいて、ノンタンのプレゼントはネコのサンタでないとお願いできない。そこでノンタンはのこのサンタを一生懸命探すのだが……。見開きのページいっぱいにいろいろな動物のサンタクロースがたくさん描かれているどころなど、子どもは大喜びするだろうし、親が読み聞かせをしてあげるにも、ぴったりな絵本だ。今年のクリスマスには従妹の2歳になった子どもに、この絵本を贈ることに決めた。
 ところで、本書では無邪気な笑顔のノンタンだが、本当は意地悪したり嘘をついたりするやんちゃな子猫らしい。他のシリーズではどんなノンタンが描かれているのか、続けて読んでみたい。

 なお、Amazonの詳細データでは著者はおおとも やすおみとキヨノ サチコの二人で、2000年11月2日、偕成社より刊行となっているのだが、私が書店で買った本だと、1978年12月初版1刷、2008年1月初版331刷、2008年10月2版1刷となっている(値段は735円(税込)で同じ)。著者については「作・絵 キヨノサチコ」とあるのだが、これは故おおともやすおみ氏との著作権にからむ複雑な成り行きがあったようで、現在は決着がつき、作・絵はキヨノサチコと表記されているようだ。

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ながれぼしをひろいに

 スズキコージの絵本を最初に知ったのは『やまのかいしゃ』で、この絵本の絵を担当したのが片山健。スズキコージと片山健、どちらも強烈な個性を持った作家なので、二人の共作による『やまのかいしゃ』はクラクラするような色彩と驚きに満ちた絵本だ。私にとっては、それまでの絵本に対する概念を覆されて、絵本の持っている可能性……子どもだけでなく大人にこそ絵本は必要なのではないか……を確信させてくれた、忘れられない1冊となっている。
514dgc1rh0l_sl110_  その片山健が『やまのかいしゃ』とはがらりとちがった色調で描いたクリスマス絵本が『ながれぼしをひろいに』(『こどものとも』傑作集)。 筒井頼子・著、片山 健・絵、1999年に福音館書店より刊行、840円(税込)。
 この本は今年の新作ではないが、図書館で絵本を探しているときに目に留まった。すぐに片山健の絵だとわかったが、1991年に作られた『やまのかいしゃ』のエネルギーが爆発したかのような迫力満点の絵が、ぐっと洗練されたイメージが強い。
 本のタイトルも素敵だが、主人公の女の子の名前が「みふで」だったり(美筆と書くのだろうか?)、「ミーウ」と鳴く真っ白な子猫が登場したり、筒井頼子の文章の耳に心地よい美しい響きが、洗練されたイメージに大きく影響しているのかもしれない。でも、雪の降るクリスマスイブの真夜中、夢なのか現実なのかわからないような吹雪の夜を描く片山健の絵も、白が基調となってとても美しい。そして雪の中に真っ黒なカラスが翼を大きく広げるシーンなどは、なんだか底知れぬ怖さを秘めていて、不思議な世界に引きずり込まれてしまいそうだ。そんな幻想的な世界で、小さな女の子がサンタクロースにプレゼントする流れ星を探す冒険物語なのだが、一夜明けたクリスマスの朝、女の子に届いた思いがけないプレゼントとは……このオチがクリスマスの物語らしくて大好きなのだ!

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とんがとぴんがのプレゼント

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 昨年、『クリスマスプレゼントン』を紹介したスズキコージの2008年のクリスマス絵本は『とんがとぴんがのプレゼント』(日本傑作絵本シリーズ) 西内ミナミ・著、スズキ コージ・絵、10月に福音館書店より刊行、1,575円(税込)。
 お話の作者・西内ミナミは、1965年に出版されてから現在までロングセラーを誇る『ぐるんぱのようちえん』などでおなじみの大ベテラン。ハリネズミの夫婦“とんが”と“びんが”が穴のあいた靴下をはいているサンタクロースに赤い毛糸の靴下をプレゼントするまでを描いた『とんがとぴんがのプレゼント』も、お話自体は小さい子向けに(読んであげるなら4歳から、自分で読むなら小学校初級むきで、漢字はなし)クリスマスのお話らしく手堅くまとめてある。
 そのシンプルなよくあるパターンのお話を、スズキコージの絵がはちゃめちゃにポップでシュールな世界に創りあげている。
 サンタクロースは『クリスマスプレゼントン』と同じく、「とおい とおい、きたのくに。やまの、また そのやまおくに」暮らしている。『クリスマスプレゼントン』では雪と氷に覆われた北の国を青を基調としたクールな色調でまとめていた。本書でもサンタクロースと“とんが”と“びんが”の住む北の国は青と白の雪の国だが、その他の色彩が目にも鮮やかな色の洪水で素晴らしい。
 絵の具と色鉛筆の他にも、写真や欧文文字(英語でないことは確か)の切り抜きがコラージュされていたりして、とにかく賑やかで楽しく、見てて飽きない。シンプルなストーリーの小さな子ども向きの絵本なのだけど、大人を充分楽しませてくれる、凄く贅沢な絵本です。

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クリスマスのふしぎなはこ

 翻訳絵本が続いたので、気分を変えて、今年の新刊から日本の作家のクリスマス本をご紹介します。
61i6lstgfl_sl500_aa240_ 『クリスマスのふしぎなはこ』長谷川摂子・文、斉藤俊行・絵、2008年10月に福音館書店より刊行、780円(税込)。今年の新刊といっても、とっても昭和の残り香がする絵柄の作品で、私が子ども時代に読んだ絵本なのではないかと錯覚するほど。
 文を書いた長谷川摂子は1944年島根県生まれ。東京大学大学院哲学科を中退後、公立保育園で保母になったという経歴の持ち主。東京大学大学院哲学科なんて聞くと理屈っぽい物語かと思ってしまうが、とことん優しい小品だ。
 絵の斉藤俊行は1966年、福島県生まれで武蔵野美術大学卒業。ちょうど1970年代、昭和45年の万博が開催された頃に子ども時代を過ごした人なので、その頃を彷彿させる絵柄なのかもしれない。
 男の子がふしぎなはこを手に入れるのだが、はこを開くとそこはサンタクロースの世界。はこを開くたびにサンタもクリスマスにむかって準備中で、ついに男の子の住む町並みまでやってくる……。こんなはこがあればいいなぁという、夢にあふれたクリスマスの物語だが、私はこの絵本に出てくるクリスマスやサンタクロースよりも、小さな子どものいる昭和的な日常生活の描写の方が懐かしくて、見入ってしまった。障子と廊下のある木造の懐かしさの漂う家の佇まい。窓はサッシでなくて木の枠、地味な身なりのお母さんはちゃんと三角巾を頭にまいて家事に励んでいる。手作りのクリスマスケーキはバタークリームかもしれない。ちょっとメタボなお父さんも今風なところは少しもないけれど、まじめで優しそう。
 斉藤俊行のブログ「工房 水銀堂」には、2007年8月に、この絵本の中の1ページを紹介しながら「むかし描いた絵本の一場面。今頃欲しいと言って下さる方が現れたので久しぶりに引っ張り出してみました。」とある。この一文から察するに、作品自体は昔のもので、新装版として今年出版されたのかもしれない。まさに「今頃欲しい」と言われるほど、ノスタルジックで懐かしく優しい絵本だ。

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コーギービルのいちばん楽しい日

484010669x09_aa240_sclzzzzzzz_ ターシャ・テューダーシリーズの最後を飾るのは、2002年、ターシャが87歳で描き上げた新作絵本『コーギビルのいちばん楽しい日』食野雅子訳、メディアファクトリーより刊行、1,680円。
 表紙の下部、ターシャが手描きで書いた「CORGIVILLE CHRISTMAS」が英語の原題で、ターシャ自身が序文に「1920年代の子ども時代の思い出と、わたしが子どもたちと毎年おこなってきたクリスマスの習慣を中心にしたお話」と書いている。
 今まで紹介してきたターシャのクリスマス絵本のように、ストーリーのある物語ではなく、様々な書籍やDVDなどで紹介されてきた“ターシャのクリスマス”が、そのままコーギ犬のケイレブ・ブラウンが住むコーギビルの仲間に託されて、描かれている。
 ブラウン家の暖炉のある部屋はターシャが住むコーギコテージの暖炉の部屋そのままであり、アドベント・リースもダンディーケーキも、てっぺんにカラスが飾られているクリスマスツリーもお馴染みのものだ。
 ただ、登場するのは人間ではなく、コーギ犬、ネコ、ウサギそしてボガートなど、動物(と、妖精トロル)を擬人化させたコーギビルの住人たち。ターシャならではの細かな観察に裏打ちされた描写力に愛情をたっぷりまぶした、動物好き、特にコーギ犬好きにはたまらない絵本だろう。

 このコーギビルシリーズは『コーギビルの村まつり』『コーギビルのゆうかい事件』と本書のシリーズ3部作となっていて、訳者も版元も同じだが、制作年にかなりの隔たりがあり、作者の年齢を考えながら絵本としての完成度を見ていくと、興味深い。

6144nzsaq2l_sl500_aa240_ 第1作の『コーギビルの村まつり』は、1971年、ターシャが56歳の時にアメリカで刊行され、日本ではその28年後の1999年11月に初版が出ている。
 ニューハンプシャーの西、バーモントの東にある架空の村コーギビルの村まつりの様子が実に丹念に描かれている。村全体の風景から室内の装飾、住人たちのキャラクターのかき分けまで、細部にわたって神経が行き届いており、色彩も柔らかで美しく、筆のタッチは明快。56歳という円熟期の、ターシャのエネルギーがほとばしるような作品だ。
 まだ子犬のケイレブはヤギのグランドレースに出場するために大奮闘。ライバルのトムキャットがホットドックに仕込んだ眠り薬のために危機に陥るが、ボガートの助けで見事優勝。アメリカのコメディ映画を見るような気楽な楽しさと、いつまで見ていても見飽きない、ターシャの見事な絵を堪能できる素晴らしい絵本となっている。

51rbt6rym1l_sl500_aa240_ 第2作の『コーギビルのゆうかい事件』は、第1作から26年後の1997年、ターシャ82歳のときの作品。第1作と比べて貫禄と余裕が漂う作品だ。日本では2001年5月に出版されている。
 第1作ではまだ子犬だったケイレブは、ヤギのレースで優勝した賞金を大学に行くために貯金していたが、第2作では大学を優秀な成績で卒業し、コーギビルで探偵になっている。
 アライグマの窃盗団によって盗まれた世界一のおんどりベーブを助け出すためケイレブ探偵は大活躍。『コーギビルの村まつり』よりストーリーに厚みがでていて、ローストチキンの詰め物とか熱気球の本、〈ノミコロシ〉や〈ニオイツカズ〉のスプレーなどの伏線も生かされて、いかにも探偵物らしい。
 ケイレブの書いている論文が「犬の嗅覚と犯罪のにおいに関する考察」であったり、ベーブの誘拐犯に「メルクリウス勲章(メルクリウスは英語読みマーキュリー、ローマ神話に登場する商業神だが、盗人の守り神でもある)」が贈られたり、ベーブを助け出して気球で脱出する場面でケイレブがベルヌの冒険小説『神秘の島』を思い出すなど、ストーリーテラー的なターシャの遊び心が感じられる。
 そうした余裕はさすがに年の功なのだろうが、絵のほうは『村まつり』に比べて色合いがダークになり、線描もラフな感じを受ける。だが絵の構成力や緻密さ、水彩画の特色を生かした完成度の高さは見事だ。
 画家としてなら高齢でも第一線で活躍されている方は数多くおられるが、絵本作家の仕事量を考えると、82歳でこうした作品を描き上げたことは、奇跡ともいえるのではないだろうか。

51gywm97vfl_sl500_aa240__2 なお、英語版はこの作品のみ表紙絵が日本語版と違っている。ケレイブがベルヌの『神秘の島』を夢想していた、気球のシーンになっている。

 こうして3部作を比べてみると、最新作である『コーギビルのいちばん楽しい日』は全体にタッチが粗く、オリジナルなストーリー展開もなく、残念ながら作品としてのクオリティーは衰えている。作者は87歳なのだ、当たり前である。高齢で目も悪くなり、筆を持つ手も弱くなり、長時間集中力を保つことも困難になっていたことだろう。
 それでも自分の作品を待っている読者のために、一番好きな「クリスマス」を絵本にしてくれたことが、尊く、嬉しい。

 なお、現在「ターシャ・テューダー展」が高知で開催されていて、今後も各地で巡回される予定だ。また、12月20日には、NHKハイビジョン特集「ターシャからの伝言 ~花もいつか 散るように~」が放送されるようだ。

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こねこのクリスマス

41ptm3bfmgl_sl500_aa240_ クラシックコレクションよりもう少し時代が近くなった1976年にアメリカで刊行されたのが、『こねこのクリスマス』。ターシャ・テューダーは絵だけを担当し、文は娘のエフナー・テューダー・ホールムスによる。辻 紀子訳で、 2006年8月にいのちのことば社フォレストブックとして刊行、1,365円(税込)。
 ターシャの本は女の子が主人公だったり、挿絵のモデルになっていることが多いと思うが、この本はネイトとジェイソンという幼い兄弟が主人公。クリスマスイブの朝、謎の男が森に迷い込んだ子猫を少年たちの家につれてくるのだが、このチェックのワーキングシャツを着た男が、サンタクロースのようでもあり、少年たちのお父さんのようでもあり、ちょっと謎めいていて面白い設定だ。
 表紙絵のとおり、捨て猫にしてはまるまると太っている子猫だが、その太り具合が可愛くて、なんとも愛嬌があり、安心しきって少年に抱かれている幸せそうな姿にむかって、おもわず「よかったね」と声を掛けたくなってしまう。

 『こねこのクリスマス』には、兄弟がジンジャーブレッドクッキーを作る場面があるのだが、巻末には「クリスマスツリーにかざるネイトとジェイソンのジンジャーブレッドクッキーの作り方」として、レシピが載っているので、これを参考に本にでてくるのと同じクッキーを作ることができる。
61x0254vkxl_sl500_aa240_ パトリシア・コーンウェルの『検屍官』シリーズの翻訳で有名な相原真理子の訳で、1998年に文藝春秋から出ている『ターシャ・テューダーのクックブック』 (2,400円税込)にも、ターシャの本でお馴染みの様々な「クリスマスのごちそう」が載っている。
 この本はタイトル通りの料理本というより、ニューイングランド地方のオーセンティックな料理の“雰囲気”を味わう、イラストが満載のエッセイといったほうが近いようで、レシピはかなり大ざっぱだ。ジンジャーブレッドクッキーも『こねこのクリスマス』のレシピの方が詳しい。おかしいのは、『こねこのクリスマス』に「ベーキングパウダー」とあるのが、『クックブック』には「重曹」とありいかにも古めかしいことだ。

519hnt45nkl_sl500_aa240_ ターシャの娘の著作としては、エフナーの他に長女のベサニーの『小径の向こうの家』がある。ベサニー・テューダー著、食野雅子訳で1999年にメディアファクトリーより刊行。 2,100円(税込)。
 これは絵本ではなく、娘から見た母ターシャの生い立ちと生き方を、豊富な写真とともに語ったもの。私は未読なのだが、いくつか疑問が残っている19世紀風のターシャのライフスタイルについても、この本から答えが見つかるかもしれないので、ぜひ読んで見たいと思っている。

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人形たちのクリスマス

512vs9m8jtl_sl500_aa240_ クラシックコレクションのもう1冊のクリスマス本は、1950年にアメリカで初版が出版され、1978年に新装版がでている『人形たちのクリスマス』。2001年11月にメディアファクトリーより刊行、1,260円(税込)。これも『もうすぐゆきのクリスマス』と同じく、訳者の内藤氏所蔵の原本から印刷用の原稿(スキャニングしてデータ化)が作られている。
 セサニーとナイシーという110回もクリスマスを見てきた古い人形たちが過ごすクリスマスの物語。人形たちはパンプキンハウスという大きくて立派な人形の家を持ち、クリスマスには仲良しの人形たちを招待してパーティまで開く。「ディナーはスープにはじまって、3ぴんのコース。さいごにアイスクリームが出ました。人形サイズのシャンパンのびんも出されました。中味は、ただのジンジャーエールだったけど。(本文抜粋)」という豪華なご馳走も出て、人形用のツリーも飾られクリスマスプレゼントもちゃんと貰う。
 ターシャが若い母親だった頃、クリスマスにディナーやツリーの用意をする間、子どもたちを他の何かに惹きつけておきたくて、この人形を使ったクリスマスパーティを思い立ったという。子どもたちは自分たちで人形のツリーを飾ったり、人形たちにディナーを食べさせたりしなくてはならないのだから大忙しで、母親の仕事のじゃまをしないですむというわけだ。しかも、人形のパーティが終わったあとに子どもたちのために行われるマリオネットショーも、実際にテューダー家の大人たちが総出で上演したというから、驚いてしまう。
 ターシャはじめテューダー家の大人たちは子どもたちのクリスマスを完璧なものにするために、徹底的にこだわって本気で全精力を使ったに違いない。あっぱれだ。

 この本を読むと、私も自分の古い人形、7歳のクリスマスにやってきた私の「ミルちゃん」に、何かクリスマスらしいことをしてあげたくなるからおかしなものだ。きっと、この絵本を読んだ女の子は、みんなそう思うに違いない。

413ugnei1ll_sl500_aa240_クリスマスと人形をテーマにした絵本は多い。2006年のクリスマス本特集では、ルーマー ゴッデンとバーバラ・クーニーのゴールデンコンビによる『クリスマス人形のねがい』や、アンデルセン原作の『すずの兵隊さん』などを紹介している。
 ホフマン原作の『くるみわり人形』も様々な訳者や画家の手によって描かれているが、2008年には女優の中井貴惠の訳、いせ ひでこの絵で新作がブロンズ新社より刊行されているようだ。 1,575円(税込)。

51ydvgldr9l_sl500_aa240__2 2008年の新刊絵本ではそのほかにも、2008年の新刊『クリスマスの人形たち』ジョージー・アダムズ著、カーチャ・ミハイロフスカヤ絵、こだま ともこ訳が徳間書店から刊行されている。1,680円(税込)。私は未読なのだが、ロシア生まれの画家ミハイロフスカヤの絵がクラシックで華やかで、評判のようだ。

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もうすぐゆきのクリスマス

 現在では入手困難なターシャ・テューダーの初期の傑作絵本11冊が、2001年10月から2002年11月までに、内藤里永子(または、ないとう りえこ)の翻訳でメディアファクトリーから刊行されている。
 「クラシックコレクション」と名付けられたこのシリーズからクリスマスがテーマとなった絵本が2冊ある。

51btrd8ksel_sl500_aa240_ 『もうすぐゆきのクリスマス』は、1941年の作品。「ふるい、ふるい いえにくらす」、セスとベサニーとマフィン(表紙絵の真ん中の、マフに両手を入れているのが、多分マフィンだろう!)の3人の子どもの物語は、クリスマスがタイトルになっているが、全32ページ中、26ページは子どもたちの冬の暮らしや、学校での出来事や遊びを描くことに費やされている。
 実は、この物語で印象的だったのはクリスマスのことよりも、学校でききわけのない子どもが罰として入れられる「スカンクコート」の入った衣装棚のこと! アダム先生のコートは、猫と間違えてスカンクを撫でてから、「はながまがる、くさいにおいが とれないのです(本文抜粋)」。そのコートが入っている衣装棚に入るのだから「スカンクコート」の罰!! あんまりだ(笑)。実際にアメリカではこういうことが行われていたのだろうか?
 ターシャの絵本、特にクリスマスをテーマにしたものは、美しいツリーやリース、リボンで飾られたプレゼントや美味しいクリスマスのごちそうなど、きれいきれいしたものが多く登場するので、この「スカンクコート」の入った衣装棚には吃驚仰天、大笑いした。しかも、このページの挿絵のうつむき加減で神妙な顔をした子どもたちの姿ときたら……「スカンクコート」のにおいは、さぞかし強烈だったのでしょうね!

 この本の奥付には「本書は、内藤里永子氏所蔵の原本を解体し、印刷用の原稿として使用しました。」と小さく書かれている。戦前の絵本だから原画は入手できなかったのかもしれない。翻訳者の内藤氏のプロフィールに、趣味は絵本の蒐集とあったので、その中に1941年にアメリカで出版された絵本があり、多分、それを解体して1枚ごとに直接スキャニングしたのだろう。印刷技術の発達のおかげで、60年後の日本でも貴重な絵本を見ることができるのはありがたい。でも、その貴重な英語版の原本を解体するのは、さぞ勇気がいることだったろう。
 ブックデザインは、祖父江慎氏だった。さすがだ! プリンティングディレクションは日本写真印刷の中江一夫氏。

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ベッキーのクリスマス

51e7vxrkgal1_sl500_aa240_ 12月6日は聖ニコラスの日。この日からアドベントカレンダーが飾られ、クリスマスイブまで毎日、カレンダーに書き込まれたその日の数の付いた窓が開けられていく。そんなアドベントカレンダーが本の見返しにも印刷されているのが、『ベッキーのクリスマス』ないとう りえこ訳、2007年にメディアファクトリーより刊行、¥ 1,680円(税込)。
 が、ちょっと気になることがある。アドベントカレンダーって、窓が24あって12月1日から開けるのでは? 『ベッキーのクリスマス』には「テューダー家では、昔作ったたくさんのアドベントカレンダーも、アドベントリースといっしょに、聖ニコラスの誕生日(12月6日)に、飾ることにしています(本文抜粋)」とあるので、きっとその家々によって、いろいろなやりかたがあるのかもしれない。

 本文中に「テューダー家」と出てくるように、この本の表紙カバーの袖には、「ターシャが家族のためにーーとりわけ10歳の娘のために用意した、みごとなクリスマス、ほんとうにあった話です。」と書いてある。ターシャが子育てをしていた頃のクリスマスについて、主人公ベッキーの目を通して描かれているのだ。
 それは、前述の写真集『ターシャ・テューダーのクリスマス』に掲載されているコーギー・コテージでのクリスマスの世界が、そのまま絵になったとも言える。写真集については、私はいろいろと思うところがあったのだが、この物語については、本の魔法にかけられて、あっという間にターシャの世界に引き込まれた。
 原作は1961年、ターシャ45歳の時にアメリカで発表されていて、絵本作家としても一番、脂がのっていた時期だと思うのだが、実に丹念に絵が描き込まれていて、クリスマスの飾り付けや部屋の様子などに目が奪われてしまうのだが、登場人物も実に良い表情をしている。特にベッキーの初々しい表情は、見ているこちらが自然に微笑んでしまうほどだ。
 日本では2007年10月に初版が出ている。アメリカでの初版から46年後の初翻訳ということで、テレビでターシャ・ブームが起きたことも関係しているのだろう。私が買った本は2008年11月発行の第3刷なのだが、著者プロフィールの最後には「2008年、逝去(92歳)」と入っている。

511m7uvcl_sl500_aa240_ また、この本は2007年7月に刊行された『ベッキーのたんじょうび』と姉妹絵本となっているが、絵本というより絵話(ばなし)に近く、文章にはルビのない漢字も入っているので、小学生以上(たぶん、ベッキーと同じ10歳くらいかな?)を対象とした読み物といえるだろう。

611oz92bevl_sl500_aa240_ なお、アドベントカレンダーについては『ターシャ・テューダーのクリスマス アドベントカレンダー』が2007年に発売されている。カレンダーといっても壁に吊す形ではなく、絵本の体裁をとっていて、毎年使えるように工夫されている。もちろん、クリスマスまで毎日24の窓を開けることができる。

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ターシャ・テューダーのクリスマス

 児童文学に多大な功績があった日米の作家二人が2008年に亡くなられている。
 一人は日本の石井桃子(1907年3月10日ー2008年4月2日)。自らも絵本や児童文学を創作したが、欧米の児童文学を数多く翻訳して日本に紹介した。文中にクリスマスが描かれている作品も数多いと思うが、昨年のクリスマス本特集では、その中から『ビロードうさぎ』などを紹介したので、ご興味のあるかたはご覧ください。xmas

 もう一人はアメリカの絵本作家ターシャ・テューダー(Tasha Tudor、1915年8月28日ー2008年6月18日)。
51p9hw1whhl_sl500_aa240_ 絵本のほかにも、19世紀のライフスタイルを再現した自給自足の暮らしぶりや、園芸家としのターシャを紹介する本がたくさん出版されている。その中でクリスマスをテーマにした写真集が『ターシャ・テューダーのクリスマス』。ハリー・デイヴィス著、ジェイ・ポール写真、相原真理子訳、2000年に 文藝春秋より刊行、¥ 3,150 (税込)。

 私はターシャの絵本は何冊か読んだことがあったのだが、数年前にNHKで放送された「ターシャからの贈りものーー魔法の時間のつくり方」を見たくらいで、作者自身についてはあまり知識がなかった。この機会にどういう人だったのか調べてみたのだが、ターシャは1915年にボストンの名家に生まれている。
 『ヘレンのクリスマス』を紹介したときに、猩紅熱のことで『若草物語』に触れたが、作者のルイザ・メイ・オルコット(1832-1888)は1844年にボストンへ移住しており、オルコット家はテューダー家と親しかったようだ。ターシャは1968年に『若草物語』の挿絵も描いているようだが、主人公の一人であるエイミーと結婚するローリー青年は、ターシャの曽祖父がモデルになっているらしい。これは初めて知った。
 ターシャは社交生活を嫌い、パーティより農場が好きで、15歳で農業の道に入り、23歳で結婚と絵本作家としてのデビューと、2つの人生の大きな転機を迎えている。その後、80冊以上の本を出版し、アメリカを代表する絵本作家となった。57歳の時にバーモント州に「コーギー・コテージ」と呼ぶ家を建て、以後、この地で農作業に勤しみ、広大な敷地で花を育てた。
 ターシャ自身は20世紀を生きた(+21世紀もだ!)人だが、今回のクリスマス本特集で紹介した『ヘレンのクリスマス』や『大きな森の小さな家』で描かれている19世紀の自給自足の生活に憧れ、「コーギー・コテージ」でそのライフスタイルを実践した。
 

 『ターシャ・テューダーのクリスマス』は、「コーギー・コテージ」で毎年迎えるテューダー家のクリスマス、というより、クリスマスの準備をするターシャを写真とハリー・デイヴィスの文で紹介している。
 「コーギー・コテージ」での生活は、そのままターシャの絵本に描かれていて、本書の中にもその一部が掲載されているが、絵本の世界がそのまま「コーギー・コテージ」での生活となっているのか、その逆なのかわからなくなるほど、二つの世界は一体となっている。
 そのまるで絵本の中の出来事のような、だれもが夢見る、大自然に囲まれた素朴で穏やかで心豊かな暮らし。その中でツリーもプレゼントも料理も全て手作りし、家族が集って祝うクリスマス……これを現代のアメリカで実践するには、魔法にでもかからないと無理なような気がする。実際、ターシャは絵本作家ならではの芸術的なセンスや繊細な演出で、「コーギー・コテージ」での暮らしに魔法をかけているのだが……。
 『ターシャ・テューダーのクリスマス』のページをめくると、そのどれもが素晴らしいシーンなのだが、だからなおさら、そこに写されているターシャの表情が、微笑んでいる写真でさえも寂しげに見えて、気にかかってしまう。
 ターシャ・テューダーの両親は彼女が幼いときに離婚し、ターシャは他家に預けられて多感な時期を過ごした。ターシャ自身も4人の子どもを授かってはいるが、46歳で離婚している。だからこそ、家族の幸せを象徴するようなクリスマスは、ターシャにとってなによりも大切なものとなったのだろう。「喜びは創り出すもの」と言い続け、それを実践し、家族や友人を喜ばせるために、魔法のようなクリスマスを準備するターシャ。幸せなクリスマスを演出することこそ、ターシャの人生を支える力の源となったのかもしれない。

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ローラのクリスマス

 バーモンド州の丘の上の農場に住むヘレンより、さらにワイルドなアメリカの開拓者一家の暮らしを綴ったのが、ローラ・インガルス・ワイルダーの『インガルス一家の物語』だ。NHKで放送されたテレビドラマ『大草原の小さな家』と言ったほうがわかりやすいかもしれない。
51n83nq8fml_sl500_aa240_ ワイルダーが1932年、65歳のときに発表したインガルス一家の家族史は、その後、数多くの作品となったが、私の持っている本は、福音館書店から刊行されたハードカバー『大きな森の小さな家』(1972年初版)の1983年12月31日の第30刷、1,200円(現在税込で1,680円)。

 “むかしむかし、いまから百年もまえに、北アメリカ、ウィスコンシン州の「大きな森」の、丸太づくりの小さな灰色の家に、小さな女の子が住んでいました。”という一文で始まるインガルス一家の長い物語の第1巻に、大きな森で迎えるクリスマスが描かれている。
 幼いローラにとって、従姉妹たちが遠くから訪ねてきて一緒に過ごすクリスマスイブ、暖炉の前に吊した靴下の中にプレゼントを見つけるクリスマスの朝、かあさん手作りのおなかいっぱい食べるクリスマス・ディナーと、それは夢のように楽しい出来事だ。
 だが、厳しい開拓者の生活の中で、そうしたクリスマスを作りだすことは、どれだけ大変なことだったろう。重労働の合間に夜鍋をして作った手編みのミトンや木彫りの棚といったクリスマスプレゼント。クリスマスのごちそうも、七面鳥やローストビーフなどはなく、卵と牛乳と粉と塩で作ったパンや、塩づけブタと糖みつ入りの豆なのだ。そうしたささやかなお祝いなのに、家族揃って厳冬の丸太小屋で迎えるクリスマスは、限りない幸福に満ちている。
 このローラのクリスマスの情景に胸打たれるのは、私たちが失ってしまった大切なものに気づくからだろう。

517wq604bgl_sl500_aa240_ このシリーズは文庫化されていて、『大きな森の小さな家 ~インガルス一家の物語(1)』が、2002年6月にソフトカバーの福音館文庫として刊行されている。630円(税込)。
 単行本は函入りで、函には一番上の「二ひきの大グマ」の挿絵が使われている。単行本も文庫も表紙絵には同じ、「人形を抱いている赤いフランネルの寝間着姿のローラとインガルス家の人々」の絵が使われている。人形はローラへのクリスマスプレゼントだ。
 絵は、ガース・ウィリアムズで、1912年ニューヨーク生まれ。この挿絵をかくために著者のワイルダーを訪ねて、物語に出てくる地域を旅して丹念にたどり、10年がかりで絵を完成させて、1953年に刊行された新版に使われた。絵本『しろいうさぎとくろいうさぎ』では、絵のほかに文も手がけている。翻訳は、単行本も文庫も同じ、1917年生まれの恩地三保子。

611ye37ynkl_sl500_aa240_ 『インガルス一家の物語』の中には岩波書店が版権を持っているシリーズもあり、岩波少年文庫や岩波世界児童文学集の中に収められている。
 絵本は1996年に文溪堂からシリーズが出ていて、クリスマスの章は『絵本 大草原の小さな家〈2〉おおきなもりのクリスマス』として単独で刊行されている。1,500円(税抜)。
 絵はウィスコンシン大学出身のルネ・グレーフが、原作のガース・ウィリアムズの挿絵の雰囲気を損なわないように、幼い子ども向けの絵本に仕立てている。翻訳は1965年生まれの清水奈緒子。

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ヘレンのクリスマス

51v58cnkkl_sl500_aa240_ ウェールズに代わって、両親がスコットランドから移民してきたアメリカの少女・ヘレンのクリスマスを描いた絵本が、『ヘレンのクリスマス』 ナタリー・キンジー・ワーノック文、千葉茂樹訳、メアリー・アゼアリアン絵で2007年11月にBL出版より刊行、1,680 円(税込)。作者ワーノックの祖母がヘレンのモデルとなっており、「ヘレンのようなクリスマスをむかえるには、まだ、自動車も電話も電気もない、バーモンド州の丘の上の農場で、7人きょうだいのすえっ子として、生まれなければいけません。」という一文で、物語は始まる。そして文章の通り、描かれている絵には雪景色の中を馬が引く橇がゆき、その先には煙が立ち上っている煙突のある家々が並んでいる。
 この時代がいつ頃なのかはわからないのだが(ワーノックや祖母の生年が不明)、エジソン電灯会社が設立されたのが1881年、フォード・T型が発売されたのが1907年なので、1880年の少し前くらいのお話ではないだろうか。
 ちなみに、クリスマスにヘレンが猩紅熱にかかってしまうところは、『若草物語』のベスを思い出させるが、オルコットが『若草物語』を書いたのが1868年で、自らの幼年期の体験を描いた『インガルス一家の物語』(『大草原の小さな家』)の作者ローラ・インガルス・ワイルダーは1867年に生まれている。
 絵を担当したアゼアリアンは版画のポスター制作で仕事を始め、のちに児童書の挿絵を手がけるようになった。1999年には『雪の写真家ベントレー』(訳は本書と同じ千葉茂樹)で、コールデコット賞を受賞している。版画のもつ素朴でおおらかな雰囲気と物語が調和し、とても良い雰囲気を出していて、絵だけを見ていても楽しい。
 レイアウトは基本的に左ページに文が書かれ、右ページに挿絵となっているが、雪の中を橇に乗って教会へ向かうシーンや生まれた子馬を見に納屋へ行くシーンなどは見開きで挿絵が描かれていて、ビジュアル的な効果がよく考えられていると思う。
 一番好きなページは、馬小屋で生まれた聖母子を象徴するかのような、この馬小屋のシーンで、「これまでにほしかったものも、このさきほしくなるものも、なにもかもが、ちゃんとこの農場にはあるじゃない」という一文が、物が氾濫しているのに心は消耗していくばかりという21世紀に生きる身には、いろいろと考えさせられるものがあり、印象的だ。
 

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ウェールズのクリスマスの想いで

 前述の『ウェールズのクリスマス』の中で印象的だったのは、ウェールズのクリスマスに欠かせない家庭行事に詩の朗読があることだ。「ウェールズの男たちは、議論をしながら酒を飲み、夢を見ては詩を書き詠う古武士のような人びと」と、作者のジェーン・マースは書いている。
 シェークスピア、キップリング、T.S.エリオット、トマス・ハーディ、ジェームズ・ジョイス、そしてディラン・トマス。イギリスでは詩人に事欠かない。
 『ウェールズのクリスマス』の中では特にディラン・トマスの『ある子どものウェールズでのクリスマス』が重要な役割を果たしている。

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ウェールズのクリスマスの想いで 』は、原題がA Child's Christmas in Walesで、『ウェールズのクリスマス』の文中では『ある子どものウェールズでのクリスマス』と訳されている、ディラン・トマスの作品だ。
 エドワード・アーディゾーニの挿絵が全ページに載せられている41ページのこの本は、絵本でもなく、詩でもなく、児童文学でもなく、まさに“ウェールズのクリスマスの想いで”としかたとえようのない作品だ。
 訳者は『赤毛のアン』シリーズの翻訳で知られる村岡花子の孫にあたる村岡美枝が担当している。ちなみに、この本のタイトルは中面の扉にも奥付にも「想いで」とあるが、表紙は「想い出」となっている。1997年に瑞雲舎より刊行、 1,575円(税込)。
 「クリスマスの想い出は、いくつもの雪の玉となってころころと、英語とウェールズ語をしゃべる海へと転がってゆく」という有名な一節のように、全編が美しい詩的な言葉で綴られた独特の世界で、アーディゾーニの絵と一体となって、夢みるようなハーモニーを奏でている。
 私もウェールズ人のように、声に出して読んでみた。朗読なんてよべるようなものではなかったけれど、ディラン・トマスの不思議な力に支えられて、一気に気持ちよく読むことができた。もし、この本を手にする機会があったら、ぜひ、音読することをお薦めしたい。

 『ミルクウッドのもとに』も、ディラン・トマスの作品として『ウェールズのクリスマス』の文中で紹介されている。宇井英俊の訳で1975年に池上書店から600円で刊行されているが、現在は入手不可能なので、図書館で借りてみた。B6サイズ、144ページのソフトカバーなので、ちょうどワイド版岩波文庫のような体裁だ。これは「朗読のための劇」というサブタイトルがついているように、1954年にBBCラジオで放送された戯曲で、翻訳した宇井はNHK文芸部に勤務していた1956年に、この作品をラジオドラマとして演出し好評を博したようだ。
 戯曲ではあるが筋のある普通のお芝居とは違っていて、シャールエギッブというウェールズの架空の海辺の町の風景と住民の春の一日を描いた、面白い作品だ。訳者あとがきにも書いてあるが、非常にウェールズ的な作品で(ウェールズ語の表現だけでなく、ウェールズの風俗や習慣などが数多く盛り込まれている)、翻訳には苦労したようだ。一度、ラジオドラマで聴いてみたい。初演から50年たって、どのような演出が施されるのだろうか。

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ウェールズのクリスマス

 カレンダーを1枚めくって、12月がやってきました。今年で3回目のクリスマス本特集です。25日のクリスマスまで、毎日、クリスマスにまつわる本をご紹介していきたいと思います。
 過去2回の特集で手持ちの本はご紹介してしまったので、今年は秋になってから新しい本を集めました。その結果、今まで多かった絵本より読み物系が多くなったのですが、そうなると本を読む時間の確保が結構大変。ちゃんと毎日更新できるかどうか、現時点でかなり厳しいです。もしかしたら、昨年のように画像だけ更新で紹介文はあとからになってしまうかもしれませんが、とにかく頑張ります! どうぞ、お楽しみください。

 2007年のクリスマス本をご覧になりたい方は、こちらでどうぞ。xmasxmas
 2006年のクリスマス本をご覧になりたい方は、こちらでどうぞ。xmas

51ahc7zdtql_sl500_aa240_ 『ウェールズのクリスマス
 ジェーン・マース&マイケル・マース著、大貫郁子訳、1,785 円(税込)、径書房より1995年12月に刊行。
 この本は2年前の秋、京都に紅葉狩りに行ったときに一乗寺の萩書房で見つけた。その顛末は、こちらでどうぞ。xmas
 2006年に購入して、2007年のクリスマス特集のときにご紹介しようとしたのだがなかなか本を読むことができず、やっと2008年に読み終えたので、今年のクリスマス本特集の巻頭を飾ることになった。
 古本だがビニールのカバーがかけられていたため、白い表紙カバーも中面もとてもきれいだった。表紙カバーにはベージュトーンのクリスマスリースが描かれていて、中面の組版もとても美しく読みやすい。装丁は山田英春。
 アメリカ人のジェーンは、叔母のミムが亡くなったことを契機に、一族のルーツを求め、クリスマスにイギリスのウェールズを夫のマイケルとともに訪ねる。本書はその旅行記であり、ジェーンと夫のマイケルがウェールズでの日々を交互に執筆している。
 もちろん、タイトルそのものの「ウェールズで過ごしたクリスマス」という物語の舞台設定がとても重要であり、そこにページの大多数をさいているのだが、本書の中でもっとも魅力的なのは、ウェールズに旅に出るきっかけとなった、50年前のペンシルバニアでのクリスマスの回想シーンだ。
 “英国ウェールズでのクリスマスは、私にとっては五十年前の、あの神話のような世界へ帰る旅でもありました。”“本当に、クリスマスは楽しいことだらけ!”と文中にあるように、それはジェーンの幸せに満ちた子ども時代の象徴であり、アメリカンドリームが生きていた時代のクリスマスが描かれていて、読んでいる私たちまでを幸せにしてくれる。
 この前半があまりにも印象深かったので、ウェールズの旅のほうがいささか霞がちになるような気がしないでもない。だが、陽気で楽しいアメリカのクリスマスとはまた違った、どことなく神秘的なウェールズのクリスマスの様子も、とても興味深いものだった。

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バラライカねずみのトラブロフ

6163e51tjhl_ss500__2 なんか忘れた頃にねずみ本です。バラライカねずみのトラブロフ ジョン バーニンガム著、瀬田 貞二翻訳、1,470円(税込)、1998年に童話館から刊行。
 今年の1月にお正月だから干支のねずみにちなんだ本を紹介しようと思ったら、あまりにたくさんあって1ヶ月間では紹介しきれずに、そのままずるずると引っ張っていた。さすがにクリスマスも近づいてきて、最近はねずみ本どころではなくなかったのだが……。
 ところがびっくり、14日の朝日新聞夕刊の「絵本の記憶」で、チチ松村さんがこの「バラライカねずみのトラブロフ」を紹介していたのだ。私もこの絵本を持っており、ねずみ本特集で紹介しそびれたままになっていたので、この機会に登場!
 中欧(と思われる。バラライカだけどロシアというわけではなさそう)の雪が降り積もる冬のこと。宿屋に住み着いているねずみのトラブロフは、ジプシー楽団の演奏する音楽にききほれ、バラライカを習うために家出して、楽団と一緒に旅をする。そこへ妹ねずみがやってきて、お母さんが病気になったと知らせる。トラブロフは妹と苦難の旅をして家に帰り、やがて兄弟たちとバンドを結成して宿屋で演奏し大評判となる……というストーリーなのだが、やはり、バーニンガムの絵が素晴らしい!
 バラライカ、旅のジプシー楽団、雪原をゆく橇などが醸し出す異国情緒が、ヨーロッパの冬の陰鬱さと、ジプシー音楽の情熱と、雪の色を表現しているような、グレーと赤と白を基調に、シャガールの絵のような幻想的な色彩で、ダイナミックに描かれている。その中で、チチ松村さんも絶賛するジプシー楽団のおじいさんの哀愁漂う表情とか、音楽に魅せられてしまったトラブロフの姿とか、なんともいえない味があって、見飽きることがない。
 冬の日曜日の夕暮れ、温かいロシア紅茶でも飲みながら、読んでみたい絵本だ。天井裏や壁の中から、「黒い瞳」とか「トロイカ」などのロシア民謡を弾く、トラブロフのバラライカの音が聞こえてくるかもしれない……。

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