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日本画の行方 (あるす叢書)

 花鳥画家・上村淳之の日本画論。といっても、専門書的な難しい芸術論ではなく、現代の日本画の世界が抱えている様々な問題点を、素人にもわかりやすいエッセイで説いている。
 上村淳之は上村松園を祖母に、上村松篁を父に持つ京都生まれの3代目。京都市立芸術大学で長らく教鞭をとり、副学長で退官。日本芸術院会員でもあり、その経歴を見ていると、まさに日本画壇のサラブレッドだ。ただ、祖母や父と比べ、戦後教育の中で西洋画の影響を否応なく受けており(日本の美術教育は西洋画が基礎となっている。実際、美大の日本画専攻の学生でも、大学に入って初めて日本画の顔料に触れる学生も多いとか)、また長年、美大の教師として美術教育に携わってきた人だけに、日本画、日本文化というものをより深く追求してきた画家といえるのではないだろうか。
 この本は仕事の資料として読んだ。多分、仕事で関わることがなかったら、日本画について興味を持つこともなかっただろうし、日本人であるのに、知っている画家の名前や画集や美術館で見たことのある作品は、日本画よりも圧倒的に西洋画の方が多い。 日本画についての知識もほとんど持っていない。改めて考えてみると、本当におかしなことだ。自国の芸術についてまるで知らず、海の向こうの芸術のことに詳しいなんて……。
 日本画、特に花鳥画には独特の“象徴空間”と呼ばれる空間論が存在するのだが、著者の空間論を読んでいると、それが日本文化や東洋文化に根ざす深い精神性にまでたどり着くことに驚く。花鳥画と聞いただけで、様式的な古くさい世界を思い浮かべていたのだが、実際には、その“象徴空間”のなんとシュールなこと! 西洋画よりずっと抽象画に近くて、面白い。生活様式から芸術の世界まで、すっかり西洋化し日本人としてのアイデンティティーを失っている日本人に対して、著者は厳しい警告を発しているが、下手な日本文化論を読むより、日本画の世界を探訪した方が、日本文化の神髄について具体的な興味を持てるのではないかと思った。現に、この1冊で、私はかなり日本画とその空間論について、興味を覚えてしまった!

著  者:上村 淳之
税込価格: \1,529 (本体 : \1,456)
出  版: 美術年鑑社
サ イ ズ : 新書 / 198p
ISBN: 4-89210-112-5
発行年月: 1992.10

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